「逮捕した人物の共犯者リストにあなたの名前がある」。青森県内在住の20代男性は3月、身に覚えのない言葉を偽の警官から告げられたことに端を発し、19万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭った。警官をかたる特殊詐欺の被害が止まらない青森県。このほど東奥日報の取材に応じた男性は「人ごとではない。誰でも被害者になりうる」と訴えた。 「あなたの口座がマネーロンダリング(資金洗浄)に使われた」。男性のスマートフォンに突然、電話がかかってきたのは3月25日午前11時ごろだった。相手は「警視庁・生活安全第2課の金本」と名乗った。淡々と「共犯者リストにあなたの名前がある」とまで言われた。 「なぜ僕が」。信じがたい知らせに驚き、焦った男性だったが、指示に従うしかなかった。このやりとりの続きはLINE(ライン)の通話機能を通じて行う-という指示にも「(今どきの)警察もLINEを使うんだな」と違和感を抱かなかった。 男性は「捜査用LINEアカウント」を登録し、ビデオ通話を開始。画面に映し出されたのは警察手帳や自分の名前が記された逮捕状だった。さらに「金本」から「守秘義務があるので誰にも話してはいけない。共犯でないことを証明するため、一時的に指定口座に現金を振り込んで。後に返金もする」と言われた。身近な場所にある銀行を尋ね、送金にかかる時間を教えろ-とまで迫った。 「身の潔白を証明しなければ」。冷静さを失った男性はすぐ行動に移した。車で移動する10分間も絶えず通話が続き、落ち着いて考える余裕がなかった。「お金さえ払えば大丈夫と思った」。男性は指定された個人名義の口座に19万円を振り込んだ。ただ一段落した後も「逮捕されるかも」という不安は拭えなかった。 その日の夜、男性の通帳履歴をたまたま見た家族から「不自然な送金がある」と指摘が。「誰に送ったのか」と問われたものの、男性は強く言われた守秘義務を理由にして明かさなかった。特殊詐欺被害に遭ったとみた家族に「警察に行こう」と説得された男性は翌26日、県内のある警察署を訪問。そこで一連のやりとりを説明するうち、自分の置かれていた状況にようやく気づかされた。 「絶対だまされないと思っていた」と男性。だが逮捕への不安を感じて自信は揺らぎ、さらに守秘義務という言葉に惑わされて孤立した。働いて稼いだ19万円が戻る見通しは立っていない。「(詐欺被害の)ニュースを見ても、どこか人ごとだった。自分の無知に腹が立った」。男性は悔しさをにじませた。 今回、取材に応じたのは「被害を受けた僕の経験が誰かを救うきっかけになればいい」と思ったからだという。詐欺から身を守るため、男性は「手口を知ること」「警察に知らせること」、そして最も重要なこととして「一人で抱え込まず周囲に相談すること」と語った。