今季からマインツに所属する佐野海舟は、33節まで消化したブンデスリーガの全試合に出場している。しかも、試合終盤にベンチに下がった1節(85分間出場)と3節(79分間出場)以外は、すべてフル出場だ。 その功績が称えられ、モハメド・アムーラ(ヴォルフスブルク)、フィン・ダーメン(アウクスブルク)、ニック・ヴォルテマーデ(シュツットガルト)、町野修斗(ホルシュタイン・キール)らとともに、ブンデスリーガの「2024-2025シーズンのサプライズスター5人」に選ばれた。 リーグ公式サイトでは、「ブンデスリーガ最初のシーズンにエネルギーと守備のポジショニングによって特大の評価を得ている。この24歳はリーグの中で最も長い距離(360.4km)をカバーし、デュエル勝利数(331)でも5位につけている。サノの貢献は、マインツが欧州カップ戦の出場権を争う上で必要不可欠になっている。ドイツサッカーへの完璧な適応は、ファンからの支持を集めるだけではなく、リーグのサプライズスターの1人としての地位を確立させた」と、選出理由を綴っている(記録は記事が掲載された5月1日時点)。 周知の通り、佐野は昨夏、不同意性交容疑により国内で逮捕(その後、釈放され不起訴処分に)される騒動の渦中、チームに加入した。ドイツメディア『SPORTSCHAU』はそんな複雑なスタートを強いられる中でも素早く適応できた要因として、以下の5つを挙げている。 1.デビュー戦(DFBポカールの1回戦)から、高い期待に応えられるだけの、大きなポテンシャルを秘めていることを示した。サノは素晴らしいフィジカルと驚異的な走力で周囲を驚かせた。延長戦でもフレッシュな状態を保ち、強烈な印象を残した。 2.「そのポジションにライバルと言える選手がいなかった」とボー・ヘンリクセン監督が振り返るように、開幕当初、まだプレーが安定しない中でもスタメンで起用され続けたのは、中盤の人材が不足していたためでもあった。サノはブンデスリーガでの最初の数試合であまり良いパフォーマンスを発揮できなかったが、ピッチに立ち続けることを許された。 3.サノのもう1つの特徴が自己を真摯に顧みる能力だ。前述のリーグ序盤戦のパフォーマンスについてもみずから批判的な目で振り返り、「ドイツでプレーするのは簡単にはいかないと思っていた」と述べている。 4. 重要なキーマンとなったのがチームメイトのナディエム・アミリだ。「戦術理解の面で不安があった最初の頃、ナディエムはよく話しかけてくれた。中盤で一緒にプレーする中で大きな支えになってくれた」とサノが語る通り、2人の関係は非常に強固だ。 5.サノはマインツで非常に快適に生活している。日本人コミュニティの存在も助けになっており、クラブOBで、現在はドイツ6部のバサラマインツの監督を務めるシンジ・オカザキ(岡崎慎司氏)ともすでに何度か会っている。またマインツ女子で監督として指揮を執るタカシ・ヤマシタ(山下喬氏)は、サノにとってクラブ内での直接の連絡窓口であり、通訳も務めている。サノはすでにピッチ上やドレッシングルームにおいて簡単な英語でコミュニケーションを取れるようになっているが、ヤマシタは引き続きサポートを続けている。さらに欧州挑戦に備えるうえで忘れてはならないのが、2023年からオランダのNECナイメヘンでプレーする実弟、コウダイ(佐野航大)の存在だ。「もちろん、彼とはたくさん話をした」とサノは語っている。 一方、プレー面で『SPORTSCHAU』が特に着目しているのが、空中戦と地上戦の両方に強い点で、その際に「僕は他の多くの選手に比べて、背が高いわけでも、がっしりとした体格をしているわけでもない。でもだからこそ、頭を使って守備をすることを心掛けている」という佐野の言葉を引用している。 ドイツの移籍専門サイト『transfermarkt』によると、佐野の市場価値は加入する前の150万ユーロ(約2億4500万円)から1700万ユーロ(約27億8000万円)に急騰しているそうだ。様々な要因に支えられ、新天地に迅速に適応した佐野は、1年も経たないうちにブンデスリーガを代表するMFへと成長を遂げた。 文●下村正幸