東京都立川市の市立第三小学校で児童の母親に呼ばれて来校した男たちが教職員を負傷させた事件は、ハードとソフトの両面から学校の危機管理の課題を浮き彫りにした。学習塾を含めた教育施設への不審者の侵入は後を絶たず、子供たちを守るためには備えの見直しが急務だ。今回の事件は保護者の不満に起因するとみられるが、専門家がクレーム対応にあたり、トラブルのリスク低減に成功している自治体もある。 ■未施錠口から 立川市の市立第三小に男2人が侵入したのは8日午前。児童間のトラブルを巡って担任と面談を終えた母親が連れてきており、正門脇にある未施錠の通用口から侵入したとみられる。教室にも立ち入ったほか、職員室の窓ガラスを割るなどして教職員5人にけがを負わせ、駆けつけた警察官によって現行犯逮捕された。 4月には、埼玉県草加市の学習塾に男が侵入し、講師や中学生の生徒にけがを負わせた事件が起きており、不審者に対する教育施設の備えの再点検が求められている。 学校現場は文部科学省の指針に基づいて危機管理のマニュアルをつくり、不測の事態に備えている。ほぼ全ての学校で策定されているが、重要なのはその実効性だ。 立川市の事件では、侵入経路は未施錠の通用口だった。不審者の侵入が繰り返されるなか、文科省は学校側にオートロックや防犯監視システムの整備を呼びかけ、申し出があった自治体に対して補助も行っている。しかし、防犯体制が十分に整っているとは言い難い。 ■警備員配置8% 令和5年度の文科省調査では、不審者対策として護身道具の「さすまた」の設置率は92%に上る一方で、催涙スプレーは11%。防犯カメラは65%、玄関のインターホンは60%だった。 警備員の配置はわずか8%。私立校の22%に対し、公立校では5%にとどまる。公立でも渋谷区が区立小18校全てに常駐させるなど地域による濃淡が目立っている。 学習塾も警戒を強めている。公益社団法人「全国学習塾協会」がガイドラインをまとめ、不審者情報の共有や職員によるパトロールを呼びかけている。24時間監視の防犯カメラ運用など防犯対策をPRする塾もある。 「防犯カメラなどのハード面の整備は大前提。形式的ではなく、実効性のある運用が必要だ」