【解説】 イスラエルで「風向きが変わり始めている」 戦争の進め方に国民の怒り強まる

トム・ベネット(BBCニュース、エルサレム) イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区での戦争が新たな激しい局面に入るなか、イスラエル国内で、戦争とその進め方に対して反発の声が高まっている。 左派系政治家でイスラエル国防軍(IDF)の元副司令官、ヤイル・ゴラン氏は19日、「イスラエルは、かつての南アフリカのように、国際社会から孤立した国家になる道を進んでいる。もし我々が正気を取り戻さなければ、そうなるだろう」と発言し、波紋を呼んだ。 「正気な国家は民間人に戦争を仕掛けない。赤ん坊を殺すことを趣味にしないし、住民を排除することを目的にもしない」と、ゴラン氏はイスラエル公共ラジオの朝の人気ニュース番組で語った。 ベンヤミン・ネタニヤフ首相はこの発言を「血の中傷だ」と強く非難した。 しかし21日、元国防相で、イスラエル国防軍(IDF)の元参謀総長モシェ・「ボギ」・ヤアロン氏は、さらに踏み込んだ発言を行った。 「これは『趣味』ではない」と、ヤアロン氏はX(旧ツイッター)への投稿で述べた。「これは政権維持を最終目的とする政府の政策であり、我々を破滅へと導いている」。 19カ月前に、ガザ地区のイスラム組織ハマスがフェンスを越えてイスラエルに侵入し、大勢の民間人を含む1200人を殺害、さらに251人を人質としてガザに連れ去った直後には、このような発言はほとんど考えられなかった。 現在、ガザは廃墟と化し、イスラエルは新たな軍事作戦を開始した。11週間にわたる封鎖の解除に合意したものの、これまでにガザに届いた支援物資はごくわずかにとどまっている。 イスラエルのテレビ局チャンネル12が最近実施した世論調査によると、イスラエル国民の61%が戦争の終結と人質の帰還を望んでいる。一方で、戦闘の拡大やガザの占領を支持するのは25%にとどまった。 イスラエル政府は、ハマスの壊滅と残る人質の救出を断固として進める姿勢を崩していない。ネタニヤフ首相は「完全勝利」が可能だと主張し、依然として強固な支持層に支えられている。 しかし、イスラエル社会の一部では「絶望、トラウマ、そして何も変えられないという無力感が広がっている」と、元イスラエル人質交渉人のガーション・バスキン氏は語る。 「人質の家族の圧倒的多数は、戦争を終わらせ、合意に至るべきだと考えている」と、バスキン氏は続けた。 19日には、およそ500人の抗議者が「ガザでの惨状を止めろ」と書かれたTシャツを着用し、イスラエルの空爆で死亡した乳児の写真を掲げながら、スデロットの町からガザとの境界に向けて行進を試みた。イスラエルによる新たな軍事作戦に抗議するためだった。 抗議行動を主導したのは、「スタンディング・トゥゲザー(共に立つ)」という、ユダヤ系とパレスチナ系のイスラエル市民による小規模ながら拡大中の反戦団体だった。参加者らが道路を封鎖しようとした際、同団体のリーダーであるアロン=リー・グリーン氏を含む9人が逮捕された。 自宅軟禁下にあるグリーン氏はBBCに対し、「イスラエル国内で目覚めが起きているのは明らかだと思う。立場を明確にする人がどんどん増えている」と語った。 同じく「スタンディング・トゥゲザー」に所属するウリ・ヴェルトマン氏は、戦争の継続について、「パレスチナの民間人にとって有害であるだけでなく、人質の命、兵士の命、そして私たち全員の命を危険にさらしていると考える人が増えている」と述べた。 4月には、イスラエル軍のすべての部門に所属する予備役の数千人が、ネタニヤフ政権に戦闘の停止と残る人質の帰還に向けた合意の実現に注力するよう求める書簡に署名した。 「まずハマスを壊滅させることが最優先であり、その後に人質は解放されると考えているのは少数派だ」 それでも、イスラエル国内には異なる見解を持つ人々も多い。 21日、ガザ南部につながるケレム・シャローム検問所で、BBCは支援物資の搬入に抗議するグループの一人、ギデオン・ハシャビト氏に話を聞いた。 ハシャビト氏はガザの住民について、「彼らは無実の人間ではない」と語った。「彼らは自分たちで選んだ。テロ組織を選んだ」。 こうしたイスラエル社会の過激な一派、特に入植者グループに対して、イギリス政府は20日、新たな制裁を発表した。 イギリスはこれまでで最も強い措置として、イスラエルとの貿易協定に関する協議を停止し、イスラエル大使を呼び出した。デイヴィッド・ラミー外相は、ガザでの軍事的エスカレーションを「道義的に正当化できない」と非難した。 欧州連合(EU)もまた、イスラエルとの政治・経済関係を規定する連合協定の見直しを進めている。カヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表は、加盟国の「大多数」が25年前に締結されたこの協定の再検討を支持していると述べた。 19日夜には、イギリスがフランス、カナダと共に、イスラエルの軍事行動を非難する強い調子の共同声明に署名。ガザの人道状況が改善されなければ「さらなる具体的措置」を取ると警告した。 「世論は変わりつつある」と、ヴェルトマン氏は語る。「風向きが変わり始めている」。 (英語記事 'The mood is changing': Israeli anger grows at conduct of war)

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