2015年5月、世界の富豪や権力者たちが静かな隠れ家として利用する高級ホテル「ボー・オウ・ラック」(チューリッヒ)を舞台に、サッカー史上最大の対決が繰り広げられた。 小雨の降る早朝、スイス警察とアメリカ特殊部隊が静かにホテルのロビーに突入した。彼らは無駄のない動きで、行くべき場所を正確に把握していた。 彼らはある部屋のドアをノックし、少し前までシャンパンを飲みながら、世界一人気のあるサッカーというスポーツの未来を謀議していた男たちを驚かせた。 そして、サッカー界の有力者たちは次々と連行されていった。手錠をかけられ、ホテルのシーツで顔を隠して。この様子は中継され、世界はFIFAが何をしても許される時代の終焉を目撃した。世に言うところの「FIFAゲート」事件から、この5月で10年が経つ。 この捕り物の引き金は、2022年W杯の開催権をアメリカが逃したことだった。アメリカはインフラや技術的にも最も有力な候補と見られていたが、「サッカーの伝統がない」ということを理由に、夏の開催が不可能なほど暑いカタールに敗れた。それに疑問を持ったのが始まりだ。 2018年W杯の開催をロシアが獲得した時も多くの議論を呼んでいたが、この決定で、賄賂や票の買収の疑いがますます強くなったのだ。FIFAの幹部たち――ブラジルサッカー連盟の会長リカルド・テイシェイラとパラグアイのニコラス・レオズ(南米サッカー連盟/CONMEBOL会長)は、カタールに投票する見返りに金を受け取ったと非難されていたし、FIFA副会長ジャック・ワーナー(トリニダート・トバゴ)は、ロシア支持の見返りに500万ドル(当時のレートで約6億円)を受け取ったという噂が流れていた。 開催権を奪われたアメリカは調査を開始。FBIとIRS(内国歳入庁)はまるで映画のように、元FIFA理事のチャック・ブレイザーに隠しマイク持たせたり、内部の人間に情報提供させたりした。結果はすぐに明らかになった。 24年間にわたり、チューリヒからマイアミ、アスンシオンからモスクワまで広がる1億5000万ドル(約180億円)の腐敗と資金洗浄のネットワークが暴露された。