拘置所の医師に「外で手術を受けなければ失明する」と言われたが、保釈請求が退けられるうちに片目の視力をほぼ失った――。50代男性がそう訴え、国に賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(成田晋司裁判長)は29日、請求を棄却した。 訴状などによると男性は2019年11月、覚醒剤密輸の疑いで逮捕された。1カ月後に大阪拘置所で糖尿病の合併症「網膜症」と診断され、医師から「放置すれば失明する」と説明された。 男性は手術を受けられる病院を探すため弁護人を通じて保釈を求めたが、検察官は拘置所に問い合わせた上で「緊急的な手術までは必要ない」と反対。裁判官は「逃亡の恐れ」などを理由に請求を退けた。 4度目の請求で保釈決定は出たが、検察官の反対を受けて裁判官が保釈保証金の実質負担額を100万円から350万円に増やし、男性は断念した。 手術を受けられたのは20年6月。家族の葬儀や緊急入院など切迫した状況で、警察官などの監視付きで一時的に認められる「勾留執行停止」だった。この間に男性の右目は視力が0.03まで落ち、矯正がきかない状態になった。 訴訟で原告側は、「検察は医学的根拠を吟味しないまま、執拗(しつよう)に保釈に反対した」と指摘。「裁判官も検察の意見をうのみにして違法な身体拘束を続け、治療の機会を奪った」と主張した。 一方の国側は、原告側の強調した「健康上の不利益」は、裁判官が保釈を決める際に考慮する「一事情に過ぎない」と反論。「すぐに認めなかったことが、ただちに治療の機会を奪うことにはならない」と述べ、請求を退けるよう求めていた。(大滝哲彰)