米コロラド州で1日に開かれた、パレスチナ・ガザ地区で拘束されているイスラエル人の人質を支援する集会で、男が群衆に火炎瓶を投げつけるなどした事件で、捜査当局は2日、男が1年前から犯行を計画していたことがわかったと発表した。 事件は、同州ボルダーにある人気の屋外スペース「パール・ストリート・モール」で発生。男は「パレスチナを解放しろ」と叫び、火炎瓶を群衆になげつけるなどし、8人がやけどを負った。 この事件では、エジプト国籍のモハメド・サブリー・ソリマン容疑者(45)が、憎悪犯罪、殺人未遂罪、暴行罪、爆発物使用罪の計4件の連邦法違反に問われている。容疑者は2日、短時間出廷した。 現場近くでは、点火されていない火炎瓶が少なくとも16個見つかった。捜査当局は、容疑者がオンライン上で見つけた親イスラエルのグループを標的にしたとしている。 この事件は、アメリカのユダヤ人コミュニティーを攻撃した最新のもの。 襲撃があった集会は、ガザ地区で拘束されているイスラエル人の人質との連帯を示そうと、親イスラエルの団体「Run for Their Lives」が毎週開いているもの。 当局によると、52〜88歳の男女4人を含む12人が病院に搬送された。軽症から重傷まで、けがの程度はさまざまという。 当局は当初、負傷者は8人だとしていたが、2日にさらに4人が軽傷を負ったと名乗り出た。 最年長の負傷者は、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)の生存者だという。コロラド大学ボルダー校のユダヤ教超正統派グループ「チャバド」の責任者でラビ(ユダヤ教指導者)の、イスラエル・ウィルヘルム氏が、BBCがアメリカで提携するCBSニュースに話した。 襲撃は、ユダヤ教の祝祭シャヴオット(五旬節)の初日に起きた。 ソリマン容疑者は2日、ボルダー郡の拘置所からビデオ中継で5分弱出廷した。オレンジ色のつなぎを着ていた。 裁判官が、手続き上の質問をいくつか尋ねると、ソリマン容疑者は「はい」と答えた。それ以外は何も話さなかった。正式起訴は5日に予定されている。 当局は2日、ソリマン容疑者について、単独犯とみられると述べた。 ■「すべてのシオニストを殺したい」と 米連邦捜査局(FBI)の逮捕状宣誓供述書によると、容疑者は逮捕後の取り調べで、娘の高校の卒業式後に実行しようと、1年前から襲撃を計画していたと警察に語った。 ソリマン容疑者は取り調べに対して「すべてのシオニストを殺したい」と述べ、襲撃を再び実行するつもりだと供述したと、裁判所資料に書かれている。 現場近くでは、点火されていない火炎瓶のほか、ガソリン入りの背負い式除草剤噴霧器も見つかった。 警察によると、ソリマン容疑者は犯行時、オレンジ色のベストを着た庭師に扮装し、できるだけ群衆に近づこうとした。 宣誓供述書によると、容疑者は火炎瓶の作り方に関するユーチューブ動画を視聴していた。 捜査当局によると、容疑者は銃の使用方法を学んで銃の携帯許可証を取得しようとしたのだと供述。しかし、自分の在留資格では銃器にアクセスできないことから、最終的に火炎瓶を使用したと、捜査当局は見ている。 裁判所資料によると、容疑者はコロラド・スプリングスの自宅からボルダーまで車で移動し、集会が始まる5分前に到着した。現場に向かう途中でガソリンを購入したと供述したという。 FBIによると、容疑者は取り調べの中で、自分はシオニストを憎んでいると話し、シオニストは「自分たちの土地」を乗っ取るのをやめる必要があるため、彼らを標的にしたと語った。「自分たちの土地」とは、パレスチナ領土のことだという。 裁判所資料によると、容疑者は妻と5人の子供に宛てたメッセージを保存したiPhoneを机の引き出しに隠してきたと供述。妻がその後、iPhoneを当局に届けたという。 捜査当局は2日、ソリマン容疑者が周囲を脅かす兆候はこれまでなかったと明らかにした。 「我々はソリマン氏の行動について責任を負わせるつもりだ。今回の訴追は、その第一歩だ」と、コロラド州のJ・ビショップ・グルウェル連邦検事代理は2日、記者会見で述べた。 ■3年前に移住 ソリマン容疑者は3年前にコロラド・スプリングスに移り住んだ。それ以前は、クウェートで17年間暮らしていた。 CBSニュースは複数の情報筋の話として、ソリマン容疑者は2022年にカリフォルニア州に到着したと報じた。この時保有していた非移民ビザの期限は、2023年2月だった。 米国土安全保障省は、容疑者がカリフォルニア州到着から1カ月後に亡命を申請していたと説明した。申請の結果や、在留をめぐる問題が解決したのかについては、詳細は明らかにしなかった。 ドナルド・トランプ政権のスティーヴン・ミラー大統領補佐官(政策担当)は、ソリマン容疑者はビザの期限が切れてオーバーステイになった後、ジョー・バイデン前政権下で就労ビザを与えられていたと述べた。 「昨日の恐ろしい襲撃を鑑み、すべてのテロリストやその家族、テロリストのシンパは、トランプ政権下では我々があなた方を見つけ出し、ビアをはく奪し、国外退去させることを理解しておくべきだ」と、マルコ・ルビオ米国務長官はソーシャルメディアに投稿した。 米配車サービス大手ウーバーの広報担当者は、ソリマン容疑者が2023年から同社のフードデリバリー・ドライバーとして働いていたと、CBSに述べた。 ウーバーによると、ソリマン容疑者は勤務を始める際、犯罪歴と運転歴の身元調査に合格したほか、写真付き身分証明書を提出。有効なソーシャルセキュリティー・ナンバーを保持するなど、同社が求めるすべての要件を満たしていたという。 ■ユダヤ人コミュニティが標的に トランプ大統領は、ソリマン容疑者が実行したとされる攻撃は許されるものではないと、ソーシャルメディアに投稿した。 「今回の出来事は、なぜ我々が国境を安全に保ち、不法入国した反米の過激派を我が国から追放しなければならないのかを示す、新たな一例だ」と、トランプ氏は述べた。 アメリカのユダヤ人コミュニティは、ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をめぐり、相次いで攻撃を受けている。 先月には、首都ワシントンの中心部にあるユダヤ博物館の前で、イスラエル大使館の職員2人が銃で撃たれて死亡した。警察は犯人について、銃撃のあとに「解放しろ、パレスチナを解放しろ」と大声を上げていたとしている。 4月には、ペンシルヴェニア州ハリスバーグの州知事公邸で火災があった。ジョシュ・シャピロ知事(民主党)はユダヤ系。当局は、憎悪犯罪での訴追を検討しているとしている。 イスラエルは、2023年10月7日にハマスが越境攻撃を行い、約1200人を殺害、251人を人質として連れ去ったことを受け、ガザ地区で軍事作戦を開始した。 ガザ保健省によると、イスラエルが作戦を開始して以降、ガザで少なくとも5万4470人が殺された。 (英語記事 Suspect in Colorado fire attack planned for a year, FBI says)