「消えたい」の投稿は「SNS上の涙」 後を絶たない自殺ほう助事件

10代の女性が自殺するのを手助けしたとして、山形県警は3日、福島市の無職、岸波弘樹容疑者(36)=未成年者誘拐容疑で逮捕=を自殺ほう助の疑いで再逮捕した。岸波容疑者は交流サイト(SNS)で女性に接触したとみられ、別の男女4人(うち3人が死亡)に対する自殺ほう助などの罪でも起訴されている。 交流サイト(SNS)に自殺願望を書き込んだ若者らが巻き込まれる事件は、後を絶たない。国も対策を進めているが、被害はなくならないのが現状だ。 神奈川県座間市のアパートで2017年、男女9人(当時15~26歳)の遺体が見つかった。男性はSNSで自殺をほのめかす投稿者を「一緒に自殺しよう」などと言って自宅に誘い込み、次々と殺害していた。 男性は強盗・強制性交等殺人などの罪で死刑が確定。この事件がきっかけで、警察庁は自殺勧誘を「有害情報」と定め、削除を要請するようになった。 国はSNSを使った民間事業者による相談事業を18年に開始。厚生労働省によると、23年度の相談のうち、19歳以下が全体の40%、20代が26%を占め、自殺に関する相談が最多だった。 ネット上の違法・有害情報を受け付ける「インターネット・ホットラインセンター」は警察庁の委託を受け、自殺につながる投稿の削除要請に取り組んでいる。センターによると、24年は自殺を誘う書き込みなどの通報が6582件(前年比27件減)あり、うち4986件が削除された。 SNS各社も対策を進め、「死にたい」「消えたい」などと検索すると、最初に相談窓口の情報が表示されるようになっている。 ネットで相談を受け付け、自殺対策に取り組んでいるNPO法人「OVA」の代表理事、伊藤次郎さん(40)は、自殺を願う書き込みが多い背景について「現実の世界でつらい気持ちを打ち明けられなかったり、受け止めてもらえなかったりした経験から、ネットに書き込まざるを得ない状態だ」と背景を分析する。 本当に死にたくて書き込んでいるのではなく、「誰かがSOSに気づいてほしい」と助けを求める「SNS上の涙」だと訴える。 SNS上には自殺に関する情報があふれ、悪意のある第三者がメッセージを送ることは防げず、伊藤さんは「ブラックボックスになっている」と指摘する。 今回の事件については、詳しい経緯がまだ分からないとした上で、自殺願望を抱える人は自分の身を守る力が弱くなる傾向にあるとして、座間市の事件のように心の弱っている人を狙った可能性を指摘する。 新たな被害者を防ぐため、「死にたい」などの投稿ができないよう規制すべきだという声も一部である。しかし、伊藤さんは「隠語が出てくるなど『いたちごっこ』となり、本質的な解決にならない」として「ネットから自殺方法などの有害情報を遠ざけたり、一人一人の悩みに合わせて適切な専門家につないだりするのが重要だ」と語る。【木原真希、最上和喜】 ◇相談窓口 ・24時間子供SOSダイヤル いじめやその他の悩みについて、子どもや保護者などからの相談を受け付けています。原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関につながります。 0120・0・78310=年中無休、24時間。 ・子どもの人権110番 「いじめに遭っている」「家の人に嫌なことをされる」など、先生や親には話しにくい相談に法務局の職員や人権擁護委員が応じます。 0120・007・110=平日の午前8時半~午後5時15分 ・まもろうよ こころ さまざまな悩みについて、LINEやチャットで相談を受けている団体を紹介する厚生労働省のサイトです。年齢や性別を問わず、自分に合った団体を探せます。 ・こころの悩みSOS 悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。

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