社説:匿流捜査の強化 ネットに潜む中枢絶て

デジタル社会の裏でうごめく「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」をあぶり出し、根絶につなげてもらいたい。 警察庁と警視庁は10月、匿流捜査の新体制を発足させる。犯罪の広がりや凶悪さも深刻化する中、つかみ切れていない実態と中枢に迫る狙いだ。 警察庁に全国の事件の情報を集約する「匿流情報分析室」を新設する。各道府県警から捜査員を出向専従させ、来春までに約200人態勢のチームも作る。 匿流に明確な組織はなく、首謀者や指示役を軸に、犯罪収益を回収する資金管理役、実行役を募るリクルーター、現場の実行役などで構成される。 首謀者らは、SNS(交流サイト)の闇バイト募集などで末端の実行役を次々と入れ替えたり、秘匿性の高い通信アプリを連絡に用いたりして犯罪に及ぶ。末端を足掛かりとした従来の「突き上げ捜査」は通用しづらく、24年に摘発した関連の容疑者1万人余りは、多くが実行役らの逮捕で、中枢メンバーは1割にとどまる。 暴力団や「半グレ」と呼ばれる不良集団とのつながりも指摘される。 多くは首都圏を拠点にしているとみられ、専従チームは警視庁に新設される「匿流対策本部」に出向し、SNSに潜む中枢メンバーを集中的に捜査する。 警察庁の統計によると、特殊詐欺は1〜3月の認知件数が約6200件と前年同期の約1・6倍で、被害額は3倍超の約270億円に上る。 手口は多様化している。国税電子申告・納税システムを悪用した犯罪のほかに、京都や滋賀では、屋根点検を偽り不安をあおって工事契約を結ばせる「点検商法」や、暗号資産の投資話を装う詐欺が相次いでいる。 新たな捜査手法「仮装身分捜査」も導入され、5月に全国で初めて特殊詐欺の容疑者1人を摘発した。捜査員が架空の身分で応募し、犯行前の摘発につなげた。 詳細は明らかにされておらず、有効性や運用方法を検証し、説明責任を果たす必要がある。 近年、匿流グループは東南アジアなど海外を拠点にするケースが発生しており、外国当局との連携を深めることも欠かせない。 暗号化通信や仮想通貨といった新たな技術が、犯罪の温床になっている問題も無視できない。IT事業者や金融機関側との協力や対策も問われよう。

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