「私の娘は事件後、明らかに様子が変わってしまい、精神的なストレスを受けていると感じています。体調を崩すことが増え、いまでも通院しています。日常的にも『やめて』などの独り言が増え、夜も眠れない日が増えてしまいました」 当時6歳の女児にわいせつな行為をしたとして、不同意わいせつの罪に問われている田中元(はじめ)被告(51)の第2回公判が5月30日に開かれた。意見陳述のため出廷した被害者の父親は、事件後の娘の様子を述べ、怒りをにじませたのだった。 大田区の団地内のマンションでAちゃん(当時6歳)の胸を触ったとして、’24年10月6日に警視庁蒲田署に逮捕された田中被告は、’25年4月18日の初公判では、Aちゃんの胸を故意に触ってはいないと、弁護人の質問に答えるかたちで主張していた。 「屋上から景色を眺めようと思ってマンション内に無断侵入しました。エレベーターに一緒に乗った女の子が11階で降りてからもついてきたため、このままでは無断侵入がバレると思い、『ついてこないで』という意味合いで左肩を押しました。そのとき、胸に手が当たったかもしれません」 「わいせつ行為はしていない」という田中被告の主張に対し、検察官が質問に立った。 「11階で降りたら、ただ11階に用事がある人だと思うのですが、わざわざAちゃんに『降りたら階段に行くね』と言ったのはなぜですか?」という問いに田中被告はこう答えた。 「私が屋上階に行くことが女の子にわかってしまうと思ったからです。11階で一緒に降りて、その後、階段を下りてからエレベーターに乗りなおそうと考えていたので、怪しまれないように『降りたら階段に行くね』と言いました」 検察官「『降りたら階段に行くね』と言えば、怪しまれないと思ったのですか?」 田中被告「無断侵入が発覚しにくいかなと思いました」 検察官「Aちゃんがどのように納得すると思ったのですか?」 田中被告「それはわかりません」 検察官「ここ(事件現場)は団地で多くの人が住んでいて、多くの人が訪れます。Aちゃんがそれら全員の顔を知っているとは思えないんですが?」 田中被告「それはそうかもしれません。ただ、エレベーターの前でそわそわしたり、周りをキョロキョロ見まわしたり、怪しく見えたかなと思いました」 ◆「小さい女の子に話しかけるほうが不審では?」 次に、田中被告が「供述調書は真実ではない」と主張したことについて、「なぜ、(取り調べで)嘘の弁解をしたのか?」と検察官が質問すると、次のように答えた。 「逮捕された時、事件のことを何も思い出せませんでした。『覚えてません』と何度も言ったのですが、警察にこうやったんじゃないかと、どんどんどんどん責められて、嘘の弁解をしてしまいました」 最後に裁判官が「私からもちょっと聞きます」と質問をはじめた。 裁判官「なぜ、景色を眺めるのに、この団地を選んだのか」 田中被告「以前、来たことがあるからです。30年くらい前なんですが、夏場の花火大会がきれいに見えたんです。なので、きれいに景色が見えると思いました」 裁判官「あなたは、しきりに無断侵入がバレないようにと言いますが、そこまで恐れていた理由は何ですか」 田中被告「やはり周りの人にどう見られているんだろうというのが気になりました。『あなた、ここに住んでるの?』などと聞かれたらどうしようと思いました」 最後に、裁判官が「あなたが小さい女の子に話しかけるほうが、周りから警戒されると思いませんでしたか」と質問すると、田中被告は「そのように思います」と答えたのだった。 第2回公判では、論告弁論に先立ち、Aちゃんの父親が意見陳述を行った。被告人席に座る田中被告を一瞬、にらみつけると証言台に座り、冒頭のように述べ、さらにこう続けた。 ◆「被告人が更生することはないと思います」 「事件当時、住んでいた自宅は事件現場から近かったため、事件後、引っ越しせざるを得なくなりました。娘が事件当時に着ていたTシャツは娘にとって楽しい思い出がある大事なものでしたが、今回の事件で着られなくなり、廃棄せざるを得なくなってしまったのです」 そして、田中被告に対する怒りをあらわにしたのだった。 「私は被告人が当時6歳であった娘に対して、卑劣な行為をしたものと考えております。しかし被告人は、この裁判において謝罪も反省もせず、不合理な言い訳を続け、無罪を主張しております。私はこのような被告人が更生することはないと思いますので、一日も長く刑務所に入れてもらいたいと思います」 続く論告弁論で検察官は、「Aちゃんの供述が具体的で信用できる一方で、被告人の弁解が不合理で信用できない」とした上で、さらに「再犯の恐れが大きい」として「懲役2年6ヵ月の実刑」を求刑。 弁護人は「逮捕当時の供述はとっさに嘘の弁解をした結果、真相とはかけ離れた内容になっている一方、公判廷での供述は十分に記憶を喚起された内容で信用に足る」として、「わいせつ行為自体が存在せず、または故意を欠く」として「無罪」を主張した。 最終陳述でも、「私は、『ついてこないで』という意味合いで押さえただけで、決してわいせつなことをしようと思ったわけではありません」と述べた田中被告。検察官は論告のなかで「仮に、無断侵入の発覚を恐れていたのだとしても、6歳のAが被告人を無断侵入と判断できるはずがなく、むしろAに話しかけることで不審さを増している」とも述べていた。 裁判官は、被害者Aちゃんと田中被告、どちらの供述を信用に足ると判断するのだろうか。判決は6月25日に言い渡される予定だ。 取材・文:中平良