「人を傷つけるような使用は避ける」「回答を批判的に考え、信頼性を見極める」 茨城県ひたちなか市中根の茨城工業高等専門学校。物理実験室にあるスクリーンに、人工知能(AI)を使う際の注意点が映された。画面を見ながら、一般教養部の佐藤桂輔准教授(47)と、いずれも専攻科1年の三代有斗さん(20)、小平智也さん(20)がAIの正しい使い方について話し合った。 佐藤准教授は「画面の向こうに先生がいると思って質問しよう」と2人にアドバイス。乱暴な言葉を使うとAIがその価値観を反映して乱暴な答えを返してくるためだ。三代さんは「丁寧な言葉遣いで対話するよう心がけている」と話す。 同校で新たな教育モデルを構築するプロジェクトが進む。教員と学生が日々の学習や日常生活でAIを使いながら教育に活用できる方策を探る。プロジェクトを進める中で、重視する一つがAIリテラシーや倫理教育だ。 プロジェクトは昨年8月にスタート。次世代エンジニアのAIリテラシーと批判的思考力を育て、技術革新をリードする人材の輩出を目指す。 生成AI開発を手がけるカナダのスタートアップ企業「コヒア」の非営利研究組織が支援し、同校の教員4人と2年生以上の学生約80人が参加している。 このうち就職向けキャリアデザイン支援は、これまでの経験や興味のある業界などの情報から、AIが利用者の自己分析を補助。強みや弱みなど利用者それぞれの特徴を導き出し、その人に合う可能性のある企業を紹介する。 プロジェクトリーダーを務める佐藤准教授によると、AIと教育は親和性が高く、活用は今後必須という。その上で「さまざま場面で使えるAIは便利な半面、危険性もある」と指摘する。 海外では、AIへの依存症などが原因で、利用者が自殺したり、人を殺そうとして逮捕されたりする問題が起きている。 AIの回答に頼りすぎて論理的、批判的な思考能力が低下するといった指摘もある。 AIは2年生を対象に、物理の問題を解くためのツールとしても使われ始めた。 ただ、問題を与えても、すぐに答えを示すのでははなく、ヒントとなる公式や考え方などを提示するよう設定。論理的に考えるような工夫を凝らしている。 AIの回答の中には全体的な内容や流れが合っていても一部に誤情報が混じっている場合もある。 小平さんは、回答の根拠とした情報などを調べたり、教員に聞いたりして確認することを心がけているといい、「うのみにしないよう注意している」と話す。 AIは日進月歩で進化する一方、リテラシー教育は途上の段階だ。 佐藤准教授は強調する。「学生たちには利便性、危険性ともに学び、緊張感を持ちながら正しく使ってほしい」 AI活用には、リスクが付きまとう。発展し続けるAIの陰で懸念される問題もある。共生に向けた動きを探る。