避難所も、脱出する手立てもなく、足止めされた…恐怖に襲われたテヘラン

テヘランの街はがらんとしており、店は閉まっていた。通信は断続的に途絶え、避難所も見当たらない。市民たちは毎晩、地下鉄の駅の床にうずくまり、空襲の轟音の中で不安な夜を過ごしている。 イランの首都テヘランで核施設の破壊を目標とするイスラエルの空爆が始まってから1週間が過ぎた。イスラエルはすでにイランの防空網のかなりの部分を無力化したとし、イスラエルの戦闘機がテヘラン上空を自由に飛行していると発表した。ドナルド・トランプ米大統領は1000万人に達する市民たちに「直ちにテヘランを離れるべき」と警告したが、避難に出る余力のない高齢者や子供、患者たちはどうしようもなくテヘランに足止めされている。 ■「脱出する手立てがない」…テヘランに足止めされている人々 イランの人権団体によると、今回のイスラエルの空爆で、これまで少なくとも585人が死亡し、1300人以上が負傷した。イランの国営放送は爆撃を受けて燃えており、イラン当局は恐怖を助長する世論を作ることを防ぐため、マスコミを統制しているため、まともな情報を得ることが難しい。国際電話もインターネットの接続も途切れがちだ。 AP通信やニューヨーク・タイムズなどは18日、絶望に陥ったテヘラン市民の声を伝えた。イラン政府の厳しいマスコミ統制のため、多くの市民が匿名希望か仮名でインタビューに応じた。テヘランの南側に住むシリンさん(49)はAP通信に「友人や家族に電話したり、メッセージを送る度に、『これが最後かもしれない』と思う。明日生きているかどうかさえも分からない」と語った。シリンさんの父親はアルツハイマー病を、母親は関節炎を患っており、移動が不可能だった。それでも、脱出できるかもしれないと思って、薬と燃料を手に入れようとしたが、無駄だった。ガソリンスタンドで午前3時まで並んだが、燃料が残っていないと言われたという。 米国在住のあるイラン系人権研究者は「今週初め、テヘランを抜け出そうとしているというのが、家族からの最後のメッセージだった」と話した。交通渋滞と燃料不足のために、家族が結局脱出できなかったと推測しているだけだ。彼は「一緒に育ったいとこたちに『どこに行けばいいのか分からない。死ぬときは死ぬだろう』と言われた時、胸が張り裂けそうになった」と語った。 アルシアさん(22)は自宅に残った理由について、「20時間、30時間、40時間を車に乗って行ったとしても、そこで爆撃を受けるかもしれない」と説明した。彼は「ほとんどの店には水と食用油が底をついており、閉まっている店も多い」とし、「今はここから抜け出したくても、それに使う資源も、手立てもない」と語った。 ■警報さえ鳴らず…避難所のないイランの首都 テヘランでは、13日に初めてイスラエル先制攻撃が行われた時から、民間人のための空襲警報が鳴らなかった。多くの人々が「自力で生き残らなければならない」ことを直感した瞬間だった。 16日、テヘランから脱出したというある女性(29)は「国が避難所を建てなかったのは、過去から学ばなかった失敗」だと指摘した。彼女の恋人は買い物に行く途中、爆撃に巻き込まれて死亡した。 1980〜1988年に繰り広げられたイラン・イラク戦争当時は、テヘランにも低層住宅が多く、地下室を備えている場合が多かった。避難施設もあり、空襲に備えた訓練も行われていた。ところが、今や高層マンションが並んでおり、今避難所として活用できる場所は地下鉄の駅と80年代の戦争当時に使われていた古いトンネル程度だ。 政府はモスク、地下鉄の駅と学校を臨時避難所として開放したが、一部は閉鎖され、残りは過密状態だ。空爆が始まった13日夜、テヘランのある地下鉄駅には数百人が集まったという。他国から亡命してイランで暮らしていると打ち明けたある学生は「家族と一緒に12時間電車の駅で耐えた。駅を出てからテヘランから避難するようイスラエルが警告した事実を知った」とし、「このような状況では、移民者はさらに行く所がない」と語った。 人々は無力な政府の姿に失望感を示した。ガーディアンは15日付で、「政府が避難するように勧めているモスク、学校、地下鉄駅が安全だと、どうやって確信できるのか。もし地面に埋まったらどうなるのか」というある市民の発言を報じた。 イラン当局はイスラエルの1回目の空爆の際、イランの防空システムがなぜまともに作動しなかったのか説明できなかった。空爆直後の13日午前、国営放送では「状況を管理している」という官僚の発言が繰り返されただけで、それからは報復を誓う内容を中心に放送が行われていると、BBCは報道した。ある市民は「過去のイラクとの戦争の時は少なくとも空襲警報は鳴った」と現政権を批判した。 ■イラン市民たち、政府には冷笑 今回の衝突は数十年間にわたる国際社会制裁で、イランの経済危機が深刻な状況で起きた。トランプ大統領が1月、イランに対する制裁を強化する行政命令に署名し、イランの石油輸出の道を遮断したことで、経済における困難がより深刻になった。イラン政府が米国と核交渉のテーブルにつくようになった理由でもある。 イスラエルの空爆について、イランの市民たちの反応は分かれている。保守的な現政権に抵抗し、この機に政権が変わることを望む人もいれば、神政体制を擁護してイスラエルに向けた報復を誓う人もいる。国際的孤立を招いた現政権には反対するが、外国の爆撃で国が破壊されることは望まない人々もいる。シリンさんは「現体制に反対するが、外国の介入ではなく、イラン国民自らの力で政権交代を実現した方が良いと思う」と語った。2022年、イランの女性マフサ・アミニさんがヒジャブをきちんと着けなかったとの理由で「道徳警察」に逮捕された後、疑問死したことを受け、多くのイラン国民が政府を糾弾するデモに出た。 義父がテヘランに足止めされたというあるイラン人男性は18日、ニューヨークタイムズとのインタビューで、「政府や軍指導者の死は同情する価値がない」と語ったが、「情報不足、燃料不足で避難できなかった民間人の安全が心配だ」と話した。彼は「待避すればいいのにという人もいるが、イランは数十年間にわたる制裁で(経済が難しく)今は車がない人も多い」とも付け加えた。 チョン・ユギョン記者 (お問い合わせ [email protected] )

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