登記簿書き換えで所有者に化け、14億円詐取 住民票交付制度の穴をついた地面師の悪知恵

地価の高騰が続く大阪・ミナミを舞台に、不動産取引を装って14億円以上を詐取する大がかりな「地面師」事件が発覚した。地面師グループが相手を信用させるツールとしたのは、物件所有会社の登記簿。そこにはグループメンバーが所有会社の代表として登記されていたのだ。なりすましの発端は、偽の借用書で入手した本来の会社代表の住民票の写しだった。 ■「好きにしていいと引き継いだ会社です」 昨年3月、大阪市内にある雑居ビルの一室。地面師グループはミナミの繁華街の土地・建物の購入を不動産会社に持ちかけていた。転売だけでも多額の利益を見込める優良物件だった。 メンバーの一人、粂陵平容疑者(24)=詐欺容疑などで逮捕=は、本来の物件所有会社の代表の「おい」をかたり、新たに自分が代表に就任したと説明した。「好きにしていいと言われて引き継いだ会社です」 法人登記簿には確かに「代表取締役 粂陵平」とあった。グループは2つの不動産会社と3つの物件の交渉をまとめあげ、計14億5千万円を現金で受け取った。 ■偽の借用書を皮切りに… 法人との取引には欠かせない重要書類である登記簿。グループはなぜそれを、都合よく書き換えることができたのか。 関係者によると、粂容疑者や福田裕被告(53)=詐欺罪で起訴=らはまず、本来の物件所有会社の代表に「数十万円の金銭を貸し付けた」とする偽の借用書を大阪市内の区役所に提出し、代表の住民票の写しの交付を求めた。 住民基本台帳法では、債権回収や訴訟提起など正当な目的があれば、第三者でも住民票の写しを取得することができると規定する。 グループは、交付された住民票の写しを通じて代表の個人情報を入手し、代表名義の運転免許証を偽造。それを「身分証」とすることで印鑑登録を勝手に変更し、さらに印鑑登録証明書も手に入れた。 必要書類を取得し、なりすましを着々と進めたグループは、新たに粂容疑者を代表に選任したとする架空の株主総会議事録などを法務局へ提出。登記簿書き換えに成功していた。 こうしてみると、すべての発端が住民票の写しだったことが分かる。ある捜査関係者は「地面師の手口は昔から大きな変化はない。なりすましのために、いかにして細かな個人情報を取得するかに尽きる」と明かす。

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