母娘の愛に感動し、号泣もした。しかし、「本当にこれでよかったのか」という疑問が残るラストでもあった。 6月30(月)に最終話(第11話)が放送され、物語に幕を下ろした北川景子主演の『あなたを奪ったその日から』(フジテレビ系)。 惣菜店で買ったピザに、表示されていなかったアレルギー食材が混入していたことが原因で、3歳の娘がアナフィラキシーショックで亡くなってしまった中越紘海(北川)。 1年後、惣菜店の社長だった結城旭(大森南朋)に復讐するため、結城の3歳の娘・萌子を誘拐するも、自身の亡くなった娘と重ねてしまい愛情が芽生えていく。そして、萌子に「美海」という偽名をつけ、自分の子として育てることを決意。 それから10年、普通の母娘として静かに暮らしており、美海は中学1年生となっていた。だが、とうとう旭にすべてバレてしまい、美海は旭に連れ帰られてしまう。また、罪を償うために自首するという紘海に対して、旭は警察には自分から連絡して告訴すると宣言していた。 ここまでが第10話までのあらすじ。以降は、最終話の結末について触れるため、未視聴の方はご注意を。 ■【ネタバレあり】主人公は逮捕されてしまうのか? 結末のネタバレになるが、紘海は告訴されることも逮捕されることもなく、もちろん刑務所に何年も収監されることもなく、紘海と美海は母娘として一緒に暮らし続けるというハッピーエンドだった。 紘海を告訴するつもりでいた旭だったが、2人の愛や絆を目の当たりにし、紘海は美海の本物の “親” だと認め、こう伝える。 「責任を果たしてください。僕が言ってるのは “親” としての責任です。子どもにとって、もっとも幸せな環境で子どもを育てることです」 こうして、これからも紘海が美海を育てることになったのだ。 ちなみに、美海は旭とも週1日ペースで会っている描写も挿入されていた。紘海視点で考えれば、実の娘が亡くなった原因に大きく関与する復讐相手と協力して美海を育てていくことになり、旭視点で考えれば、愛娘をさらって10年間も引き離していた誘拐犯に娘を託したという結末。 冷静に考えると、かなり突拍子もない。けれど、美海視点で考えれば、愛する育ての母との生活を続けられ、自分を大切に想ってくれていた実父とも良好な関係が築け、全方位のハッピーエンドとなる。 ■結果論で「誘拐」という犯罪を肯定していいのか? 冒頭でお伝えしたとおり、筆者はこのハッピーエンドに号泣した。 ただ、視聴中は紘海や美海に感情移入していたため大感動だったが、放送後に余韻に浸っている段階でモヤモヤする気持ちが沸き起こってきた。それは、「誘拐という犯罪を肯定していいのか」ということ。 主人公にとって都合のいい終わり方だったわけだが、今回はご都合主義かダメだと言いたいわけではない。問題は、主人公が犯した大罪を美化していることだ。 紘海は、実娘を亡くしているから同情の余地があるとか、被害者である旭が本物の母娘だと認めて託したとか、そういうバイアス(先入観)は一回取っ払って考えてみてほしい。 あえて辛辣な表現をすると、主人公がやったのは “幼児を誘拐し自分が親だと洗脳した” ということ。実父が誘拐犯を許したのは結果論にすぎず、普通に考えればきちんと法の下に裁きを受け、罪を償うべきである。 しかし、思考が堂々めぐりしてしまうのだが、紘海と美海がこれからも一緒にいられるエンディングに、「よかったなぁ」とほっとした自分がいるのも事実。なにが正しいのか、わからなくなる。これで本当によかったのか、なかなか答えが出せない。 思うに、本作の制作陣は、視聴者に「このラストが正しいんだ」と押しつけているわけではないはず。作品として正解を提示することはせず、問題提起しているのだろう。 だから、この結末に違和感を抱かせ、視聴者たちに「本当にいい結末だったのか」と考えさせることが、『あなたを奪ったその日から』という作品の存在意義なのかもしれない。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『文春オンライン』(文藝春秋)、『現代ビジネス』(講談社)、『集英社オンライン』(集英社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『コクハク』(日刊現代)、『日刊SPA!』『女子SPA!』(扶桑社)などにコラム寄稿