改正風営法が施行された直後の摘発だった。東京・江戸川区南小岩の繁華街で、違法に客引き行為をした疑いで、スナック経営者ら2人が逮捕された。また執拗な客引きをしたとして、店の関係者で中国籍の女3人も逮捕された。 警視庁によると、逮捕された女らは路上で「飲みに行く?」「何が欲しい?」などと声をかけていたという。 経営者は「なんも犯罪してないよ!おかしいよ本当に!」と叫んでいた。これは何を意味するのだろうか。小岩駅周辺では去年1年間で、ぼったくり被害が28件あり、警視庁は客引きの取り締まりを強化している。 元徳島県警警部の秋山博康氏は、「警察には摘発の強化月間がある。また客からの苦情が多く寄せられた店には、警察が『内偵』する」と説明する。内偵捜査では、捜査員が店を張り込み、どんな客引きをしているか確認。協力者から店内の様子を聞き、令状を取り“ガサ入れ”し、経営者を現行犯逮捕するケースもあるという。 一体どんな店だったのか。この店の内情を知る飲食店スタッフは「ベロベロで足元もおぼつかないような年配の客を、両サイドから腕を組んで無理やり(店に)連れて行く。『行かないよ』と断っても付きまとう。完全にアウト」と振り返る。「知り合いも最初5000円と聞いて店に入ったが、実際請求される金額が違う。約5〜10万円取られる。いつか捕まるんだろうなと」。 「asoVIVA!sho(あそビバしょ)」オーナーの川崎将さんは、「小岩で『今さら』ですかって。前から酔っぱらいの男性に『お兄さん!お兄さん!』とやっていた。強引だ。よく見る」と証言する。 「客引き」は風営法や条例で禁止行為とされる。ベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士は、その理由を「なぜ取り締まられているかというと、歩行者や周囲の人の生活の平穏。客引きを放置していると、2次犯罪という形で、例えばアダルトビデオへの出演を強要されたり、もっと言うと街の景観や治安が害される」と説明する。 そして、「法律や条例で規制されているのは、しつこく付きまとうとか、公共の場において進路をふさぐような形で自らの店に誘引するなどが代表例だ」とした。 違法の客引き行為とみなされるのは「つきまとい」と「しつこい勧誘」だ。齊田弁護士は、小岩の事件について「60メートルという距離も長いが、進路自体も妨害したのでしょうから、そうするとアウト。言い逃れできない」との見方を示した。 一方で、一般の声かけは客引きに該当しないという。「商店街で八百屋さんが『安いよ安いよ』と言って、お店への誘引をしたりするが、自分の敷地内から声かけをするのは、特定の人に対してしつこく付きまとっているわけではない。道をふさいでいるわけでもなく、声かけ自体は客引きとはならず、適法の範囲内となる」。齊田弁護士は、ほかにも「店先から不特定の通行人に対して呼びかける」「チラシや割引クーポンなどを通行人に配布」などは、客引き行為に該当しないと語る。 小岩で過去に客引きの被害を受けた人に話を聞いた。「以前、女性3人にすれ違いざまにはがいじめにされ、引きずられながら中国パブに連れて行かれた。両端に長いソファがあり、30人くらいは入れるような店。ソファに酔いつぶれたおじさんが6人くらい寝ていて、『これはちょっと異質だ』と思い、怖くなってすぐ出た」。 別の被害客も証言する。「ベロベロで飲み歩いていたら、台湾の方がやっている居酒屋に両腕をつかまれて足を運んだらATMを5往復させられて、15万円やられた。そんなに飲み食いはしていない。(店員に)手持ちがないならATM行けばいいと言われた。この辺りでは朝方4〜5時に、ベロベロのおっちゃん連中が小脇に抱えられて、店に連れて行かれている」。 サラリーマンの街・新橋でも「酒に酔って寝ている間にクレジットカードを勝手に使われた」といったこん睡強盗が多発しているという。そのきっかけは、やはり客引きだ。新橋駅周辺では、2024年の1年間で相談件数が400件を超え、被害額は2億円以上。今年もそれを上回るペースで増えているという。 夜の新橋に詳しい事情通は「こん睡強盗の被害にあったおじさんは、明け方にたまに見かける。中国人のキャッチが酔っぱらった客をあちこち連れ回して、看板のない店に押し込む。被害者が後日被害を訴えても、どこの店か覚えていない」と話す。 2024年から増えているこん睡強盗の手法は、21時以降に「飲み放題3000円」と誘われて、雑居ビルの2階へ。1、2杯飲むと寝てしまい、朝方に目が覚める。そして後日、クレジットカード会社から身に覚えのない請求の案内が来る。その「2階の部屋」は、普段は看板も出ておらず、エレベーターも止まらない。こん睡強盗目的の客を引き連れるときのみ、なんらかの手段で入店できるのだそうだ。 東京都では2005年4月、歌舞伎町などの繁華街で、客引きなどを禁じる改正都迷惑防止条例が施行された。当時の石原慎太郎都政は、ぼったくり防止条例の導入や、防犯カメラの設置など、繁華街対策を講じてきた。また東京オリンピック・パラリンピック開催を前に、風俗環境の浄化などの対策も行われ、一定の効果が見られた。 現役の“キャッチ”が取材に応じた。「3〜4歩歩いただけで捕まったと聞くが、実際そんなわけはない。僕は全く追わない」。別のキャッチも「警察に申請して腕章を付けて、『腕章を付けている人には安心して案内してもらっても大丈夫』と客がわかれば、もっと安心だ。それで悪いことをする人は淘汰(とうた)していけばいい。そうすると街にはびこる中国人がいなくなる。行く気のない泥酔した人を引っ張って、店に連れ込んではだめだ」と話す。 キャッチが街からいなくなれば、“ぼったくり店”は増えると、彼は考えている。「どこかから客が来て、僕に『こういうことをしたい』と言えば、予算内で全部やってくれる。キャッチではなく、コンシェルジュだ」。 客引きをめぐるいたちごっこは、今後も続くのだろうか。「経営の自由とか、広告などによって自分の店を知ってもらい、それによって営業力を上げたい部分はある。それと利用者側の生活の平穏や治安維持とのバランスだろう」(齊田弁護士)。 (『ABEMA的ニュースショー』より)