海水浴の習慣のない住民を引っ張り出した北朝鮮 狙いは米朝合意か

北朝鮮の金正恩総書記肝いりの観光リゾート施設群「元山葛麻海岸観光地区」が7月、開業した。ホテル客室総数は2万室もある。朝鮮中央通信は3日、北朝鮮国内から絶え間なく観光客が訪れ、連日の賑わいを見せていると報道。海水浴を楽しむ北朝鮮の人々の写真も公開した。ロシアのラブロフ外相も同地区を訪れたほか、ロシア人団体観光客も訪れたという。 もちろん、このほとんどが演出であることは疑いの余地がない。複数の脱北者の証言によれば、北朝鮮の人々には「個人旅行」「海水浴」の習慣がない。旅行の際に必要になる列車やホテルの利用には、複数の証明書が不可欠だ。職場の支配人や党秘書、社会安全省(一般警察)担当者らの承認が必要になる。北朝鮮では新婚旅行ですら二の足を踏む人が多い。北朝鮮の国内各地から観光客が訪れる状況は考えにくい。 同地区は日本海側の都市、江原道元山市内から車で30分ほどの距離にある。元山市民なら日帰りで十分通えるだろう。しかし、北朝鮮の人々は水浴びはするが、海水浴を楽しむ習慣はない。脱北者の一人は「朝鮮にとっての海岸は戦いの最前線だ」と語る。北朝鮮と韓国は休戦状態にあり、さらに北朝鮮は2024年から韓国を「敵国」と改めて位置付けている。海岸は、韓国の工作員の浸透を防ぐと同時に、北朝鮮を逃れようとする市民を捕らえる場所でもある。この脱北者は「海外で遊んでいたら、不審者だとみられて、逮捕されかねない」と話す。だから、海水浴の習慣はない。 海水浴で楽しんでいる人々の写真を子細に眺めると、ビーチサンダルを履いている人はいなかった。もともと、北朝鮮では足の親指と人差し指でひっかける履物は、日本統治時代に下駄を愛用した日本人を連想させるため、利用を避けて来た。つま先が2つに割れた豚の足のようだと、日本人を侮蔑する言葉として「チョッパル(豚の足)」という言葉も定着している。自由に余暇を楽しんでいるように見えても、統制の影が常に見え隠れするのが北朝鮮だ。

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