粛々と待ち続けた無罪 教会、ラジオ体操、作業所に通う日々

福井市で1986年に女子中学生を殺害したとする罪で服役後、再審に臨んだ前川彰司さん。7月18日の判決を前に、前川さんの日常に同行すると、粛々と日課をこなし、無罪判決を待つ姿があった。 朝6時、前川さんが一人で暮らすマンションの一室を訪ねた。すでに身支度を終え、窓際の床に座り、たばこを吸っていた。部屋の壁には無実を訴える支援者からの寄せ書き、棚には聖書があった。 毎朝5時過ぎに起床。6時半に近所の小学校でラジオ体操、7時半に教会のミサに通う。帰宅すると、就労が難しい障害者を受け入れる作業所に送迎車で移動し、2時間ほど菓子箱の組み立てや商品の検品作業に取り組む。 32歳から37歳まで刑に服した。金沢刑務所に収容され1年が過ぎたころ、精神を乱して岡崎医療刑務所(愛知県)へ。出所後は精神科病院に入退院を繰り返してきた。 「他の冤罪(えんざい)被害者のためにも」と再審制度の見直しの必要性や、検察への怒りを口にもしたが、日課をこなす姿は、神や自分自身と向き合うことで、心の平穏を保とうとしているようにも見えた。 前川さんに、95年の「逆転有罪」判決で失ったものを尋ねた。何度も聞かれたであろう質問に、長い沈黙の後、「自分自体かな」。 21歳で逮捕され38年。還暦を迎えた前川さんに名古屋高裁金沢支部(増田啓祐裁判長)は7月18日、無罪とする判決を言い渡した。(写真・文 伊藤進之介)

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