実質的な捜査指揮の「不存在」-。大川原化工機の事件捜査を巡り、警視庁は7日に公表した約40ページの検証報告書で、当時の捜査が指揮系統の機能不全に陥っていたと断じた。遠因として、捜査の秘匿性の確保など公安部門ならではの「特性」があったとも指摘。組織風土に由来する縦割りの弊害に、風穴を開ける再発防止策も示した。 ■歴代幹部ら、積極関与せず 生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして大川原化工機の社長ら3人が逮捕・起訴され、その後異例の「起訴取り消し」となった今回の事件。 検証報告書によると、事件は重要度の高い「公安部長指揮事件」に指定され、最高責任者である公安部長を筆頭とする幹部ら「4役」、担当課の外事1課長、担当管理官のもと、不正輸出事件に特化した「5係」が係長以下20~30人態勢で捜査に当たっていた。 検証では、犯罪成否のポイントとなる輸出規制の要件の解釈について経済産業省が示した疑問点や、機器の殺菌性能を否定する従業員の供述など、捜査方針に合わない「消極要素」がどのように共有されたかに着目。当時の捜査関係者ら47人に聴取し、違法な逮捕に突き進んだ意思決定のプロセスを浮かび上がらせた。 検証の結果、こうした消極要素の詳細は現場指揮官である係長や管理官から、全体を監督・指導するはずの上層部に上げられておらず、幹部らへの報告は形骸化。規制要件の解釈を巡っては、歴代公安部長ら「4役」のうち、「経産省と丁寧に協議するよう指示した」と話したのは1人だけで、積極的に問題点を把握しようとした形跡は確認されなかった。 ■高い秘匿性、モノ言えぬ空気 検証チームは、公安部門特有の組織風土の弊害や、捜査班の人間関係にも切り込んだ。 極左暴力集団やテロなどを扱う公安部門では、捜査の「秘匿性」の確保が重視される。報告書は、このために組織の「縦割り」が生じやすいと指摘。中でも、事件を担当した外事1課5係は専門性が高く、「視野が狭くなりがちとなり、過去の成功事例に固執した仕事のやり方から脱却しにくくなるリスクがある」と踏み込んだ。 事件では、この分野で経験豊富な担当管理官や係長が現場指揮を執り、「モノ言えぬ」空気が醸成されていたとされる。検証チームの聴取に、係長は「事件で成果を挙げることで社会に貢献」したいとの思いがあったと説明。一方、複数の捜査員が「慎重意見を述べても、正面から相手にしてもらえなかった」と話すなど、不和が浮き彫りとなった。「多角的な議論がなされにくい状態となったことが、捜査方針の再検討や修正をする機会を失わせた」。報告書はこう指摘する。