被害者のため難局でも諦めず 荒川署刑事組織犯罪対策課・大槌美絵警部補(52) 都民の警察官

「これでやっと安心して眠れる」。性犯罪の事件が解決したとき、被害者から寄せられた感謝の言葉を、今も胸に刻む。どれだけ厳しい仕事でも、この33年、警察官を辞めたいと思ったことは一度としてなかった。「犯人を捕まえたい」という一心で駆け抜けてきた。そのひたむきさが、多数の警視総監賞受賞につながった。 警察官を志したきっかけは、小学生の頃に見た、警察犬をテーマにしたドラマだった。「大好きな犬と一緒に仕事ができる」と夢見たが、警視庁入庁当時は募集がなく、念願の訓練士となることはかなわなかった。 その代わりに、警察人生の多くをささげることになったのは、刑事部門。大きな事件で月に1度しか休みがなかったことや、事件解決の手がかりが1年以上見つからず、もがいた日々もあったが、諦めずに取り組んできた。 平成16年ごろ、川に流れていたスーツケースから韓国人女性の遺体が見つかった事件で特別捜査本部が設置され、捜査に従事した。当時は今ほど防犯カメラが普及しておらず、関係者への聞き込みを徹底。女性の恋人だった男と、その知人の逮捕にこぎつけた。 似顔絵捜査員としても活躍。第1機動捜査隊では、特殊詐欺被害に遭い、犯人の顔が思い出せないという高齢女性から、髪形や服装、背格好などの情報を細かく聞き取って似顔絵にした。その後、絵と同じ服装をしていた男を別の捜査員が発見し、逮捕に至った。 仕事をする上で大切にしているのは、どんな事件でも「被害者の話を信じる」ことだ。犯人と被害者それぞれから詳しく話を聞くと、双方の主張にはずれが生じてくる。それでも被害者の言葉に、最後まで真摯(しんし)に耳を傾ける。「悪事を一つも取りこぼすことのないように」との思いからだ。 思ったように捜査が進まず、雰囲気がピリつくこともある刑事部門でも、「部下をうまくまとめてくれている」と上司の赤羽浩幸副署長からの信頼も厚い。自身も娘を持つ母として、署内では子育て中の職員の働き方に気を配り、相談にも乗るなど「おおらかで姉御肌」(赤羽副署長)な人柄で知られる。 悲しい事件が起きないことを願っているが、刑事である以上、事件の発生を端緒として、被害者と向き合う宿命を背負う。「今後も、被害者の立場に立って犯人を捕まえたい」と力強く語った。(堀川玲)

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