戦争で未来を奪われた若者たちの苦悩を描く 今こそ観たい“戦争と若者”をテーマにした3作品【昭和の映画史】

■青春を戦争に捧げ、未来を奪われた若者たち NHKで放映中の朝ドラ『あんぱん』第17週で、やなせたかしをモデルにした主人公・嵩(たかし)は、それまで勇気がなくて渡せなかった赤いバッグをのぶにプレゼントするため、東京へ向かう。背中を押したのはのぶの妹、蘭子の言葉だった。 戦争で愛する人を失った蘭子は、嵩にこう語りかける。「戦争で死んだ人の思いを、うちらは受け継いでいかんといかんがやないですか? 人を好きになる気持ちとか、そんな好きな人に出会えたこととか、なかったことにしてほしゅうないがです」。 今年も8月15日がやってくる。この日に流れた玉音放送をもって終戦(敗戦)とするのが、日本社会の一般的な認識である。法的には9月2日、ミズーリ号艦上での降伏文書署名によって終戦、つまり正式な敗戦となったのだが。 8月15日が奇しくも旧盆の中日にあたるということも、終戦の日として記憶された理由の一つかもしれない。だからこそ、日本人の意識は「鎮魂」に終始し、歴史意識としては深まりにくかったのかもしれない。 戦地から生還した人々の多くは、「自分より優秀な者が命を落としたのに、生き残って申し訳ない」という思いを抱き続けた。その気持ちが、戦後の奇跡的な復興を支えたとも言われている。しかし、戦争体験世代が一線を退き、アメリカ留学組が主流となり、こうした心情が忘れられていったとき、日本の停滞が始まったような印象がある。 実際、前途有為な若者たちが多く命を落とした。国が始めた戦争によって、否応なく未来を奪われた若者たちの心情は、多くの手記に残されている。しかし、その思いを口に出すことはできなかった。今回は、そんな彼らの無念に思いを馳せるべく、若者たちに焦点を当てた戦争映画を三作選んで紹介したい。 取り上げるのは『海軍特別年少兵』、『日本戦歿学生の手記 きけ わだつみの声』、そして『雲ながるる果てに』の三作品で、いずれも配信で観ることができる。 このうち『海軍特別年少兵』は、昭和47年(1972年)8月に公開された。東宝8・15シリーズの最終作で、監督は社会派の大家・今井正である。1970年代前半ともなると戦後生まれが増え、海軍特別年少兵の存在を知らない日本人が多くなっていた。 海軍特別年少兵とは、ミッドウェー海戦の敗北に衝撃を受けた海軍が、将来の中堅幹部を育成する目的で創設した制度である。対象は14歳と15歳。少年航空兵や少年電信兵よりも若年だったため、「特別」と冠された。第1期生は1942年(昭和17年)9月に募集され、敗戦直前の1945年(昭和20年)5月までに計4期が募集された。第1期生のおよそ3分の1が戦死している。 募集は、将校が学校に出向いて制度の意義を説明し、教師が強く勧めるという形で行われた。軍国主義教育のもと、教師は少年を戦地に送り出し、少女には銃後の守り手となることを教える役割を担っていた。 物語は、神奈川県三浦郡にある横須賀第二海兵団に、14歳の少年たちが入隊する場面から始まる。彼らは純粋で、さまざまな背景を抱えていた。 両親を失い、姉が身を売って得たお金で育てられた少年。村で一番の貧困家庭に育った少年。反戦思想を持っていた父親が特高に逮捕されたことを恥じる少年――。しかし、彼らを待っていたのは、体罰を伴う過酷な訓練だった。 まだ幼さが残る少年たちに、どう接するべきか。教官たちの意見も分かれる。大学出の教官たちもまた、戦争とどう向き合うべきか、決めかねていた。やがて戦局が悪化し、特別年少兵は硫黄島へ送られる。

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