山岳救助隊の中心的存在 五日市署坂本駐在所・坂本淳二警部補(58) 都民の警察官

ざらついた岩場に足をかけ、ロープを手繰りながら下っていく。「探して、探して、必ず助ける」。四半世紀で培った経験が、山岳救助の土台になっている。 平成12年、33歳で五日市署地域係に配属され、坂本駐在所に赴任した。奥多摩の山々を背に、「坂本駐在の坂本さん」として慕われること25年。朝は通学路で子供たちを見守り、日中はパトカーで町を回ってきた。登山者の救助要請があれば、駐在所員らで構成される「山岳救助隊」の一員として山に駆けつける。 17年、難所として知られる「高黒岩」で遭難した30代男性から救助要請を受け、山に入った。バスケットボールほどの落石が足を直撃して崖から落ちそうになりながら進んだ。 頭にあったのは、先輩の教えだった。「遭難者の気持ちになって歩けば、たどりつく」-。本来は通報場所に留まるべきだが、遭難者は「早く山を出たい」という一心で低地へ向かったのではないか。そう考え、崖を縫う獣道を下った。 捜索開始から4日目。通報場所の600メートル下で男性の名前を叫ぶと、絞り出すような声で返事があった。男性は衰弱していたものの命に別条はなく、「胸が熱くなった」。 現在は救助隊13人の中心的存在として、隊員の安全にも気を配る立場だ。月1回の訓練で、後進の指導にも取り組む。数十種ある登山用具の使い方や仲間への落石を防ぐための足運び、転がりやすい「浮石」の避け方―。「登山者の気持ちになって進む」という先輩からの教えも、大切に伝えている。 住民に身近な駐在所員として、事件解決を通じて安全な街づくりにも尽力してきた。 資材置き場などを狙った連続放火事件では、数カ月にわたり捜査に従事。毎晩4時間の張り込みや追跡捜査の末、容疑者逮捕にこぎつけた。「駐在さん、ありがとう」。パトカーが去るまで、深々と頭を下げていた住民の姿が忘れられない。 20代女性が下着泥棒の被害に遭った際は、近隣の駐在にも協力を依頼し、わずか3日で容疑者を現行犯逮捕。住民らは「坂本さんなら何でも解決してくれる」と口をそろえる。 すべての根底にあるのは「人の役に立ちたい」という思いだ。受章を経てもなお、その姿勢は変わらない。「今まで通り一生懸命働いていく」。着慣れた青い制服に袖を通し、背筋を正した。(永礼もも香)

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