■中野殺害事件振り返り 2023年5月25日中野市江部 2年前の5月25日。夕暮れ時ののどかな住宅街が騒然となりました。 警察官「銃器持っているんで死んじゃうんで」 「男が女性を刺した。銃を持ったとみられる男が立てこもっている」 散歩中の女性2人と駆け付けた警察官2人のあわせて4人が殺害された事件。 猟銃を持った青木政憲被告は自宅に籠城。 ヘリカメラマン 「なんか人がいるっぽいな。いま人影が見えた」 救急車が現場に近づけず被害者の救出に難航する様子も… (※消防の記録より) 「現着時は接触できず警察からの接近指示が出てから接触となった」 膠着状態が続く中…『発砲音』 「現場から乾いた発砲音がしました」 事態が動いたのは12時間後、翌朝でした。 リポート 「午前4時40分すぎです。男が確保されたとの第一報が入ってきました」 起訴状などによりますと青木被告は事件当日の午後4時すぎ、近くに住む竹内靖子さんと村上幸枝さんをナイフで次々に殺害。 目撃者 「助けて誰か助けて、と女の人が一人で血相を変えて走って助けて助けてって。後ろから迷彩服の男が走ってくるから」 日課の散歩中に襲われたとみられる女性2人。 「ぼっちだとばかにされていると思った」 独りぼっちを意味する"ぼっち"。 青木被告が、一方的に恨みを募らせたことによる犯行とみられています。 さらに、事件の通報を受けた中野警察署の池内卓夫さんと玉井良樹さんが現場に駆け付けると…。 目撃者 「パンと1回銃声音が聞こえてそれから3秒か4秒だな。またもう一度バンと」 青木被告はパトカーの窓越しに猟銃を発砲。運転席にいた池内さんが死亡し、助手席にいた玉井さんは刃物で刺されて亡くなりました。 「目撃者がいて通報されるため、警察官が来るだろう。警察官が来たら撃たれるかもしれないと思った」 逮捕から、2か月半後。 長野地方検察庁は青木被告の刑事責任能力を調べるため、鑑定留置を実施。 おととし11月、精神鑑定の結果を踏まえ、「刑事責任能力を問える」と判断。殺人などの罪で起訴しました。 ■解説■ 今回の裁判員裁判、被告は起訴内容について、「黙秘します」と答えました。今回の裁判、争点は? 今回は、青木被告の刑事責任能力の程度とそれに伴う量刑が争われます。検察側の指摘、弁護側の主張を詳しく見ていきます。 検察側は、善悪の判断・行動をコントロールする能力、すなわち「完全責任能力」があるとして、精神疾患が犯行には影響を与えないとしています。 一方の弁護側は、「心神耗弱」を主張していて、被告が妄想状態にあったとしています。この心神耗弱というのは、善悪の判断が著しく低下していた状態を示すもので、刑の軽減の判断材料になります。 どちらの主張が認められるかで、量刑が左右されるということです。 被告の背景にはどういったものがあったのでしょうか? 今回、検察側、弁護側、いずれも被告には、精神疾患があるとしています。 検察側は、被告が大学生のころに同級生などから「ぼっち・キモイ」といわれているように感じていたとされ精神鑑定では、妄想症の診断が出ています。犯行の1年前に、殺害された女性2人から同じように「ぼっち・きもい」と言われていると感じ、殺害を考えたものの、好きな果樹園の経営に支障をきたすと殺害を躊躇したと指摘。被告には違法なことであると認識していたと認められるとしています。 一方、弁護側が主張するのが「統合失調症」です。被告は「ぼっち・きもい」と言われているとの妄想などにより大学を中退。実家に戻ってからも人とは顔を合わせないような生活をしていましたが、経営していたジェラート店などでは妄想によるトラブルを度々起こしていました。今回の犯行時の被告の状態について、弁護側の精神鑑定では、統合失調症の「再燃増悪状態」だったとしています。それぞれどう違うのか、専門家に聞きました。 Q統合失調症とは? 北信総合病院精神科 山本和希医師 「代表的なものは幻覚、妄想と言って、幻聴、いない人の声が聞こえてきたりとか、被害妄想という、まわりから悪く思われている、狙われているとか、そういう被害的な思いにとらわれるというのがよくある代表的な症状ですね」 Q再燃増悪状態とは? 「症状が再燃、落ち着いていた症状がまた出現してきて、かつて落ち着いていた時、かつてその症状があった時よりなおさら悪くなってしまうとか、そういう場合は増悪、病状が悪くなっているという意味合いで使う言葉ですね」 Q妄想症については? 「妄想症というのの特徴は、統合失調症との違いは、統合失調症みたいに言動のまとまらなさとか、支離滅裂になったりというような、そういう症状は出にくくて、妄想以外の日常生活は多くの場合は普通に送っている。まったく善悪の判断がつかないとか、そういうふうになるとは一般的に精神医学的にはあまり考えにくいので」 妄想症と統合失調症の再燃増悪、それぞれが責任能力の程度をどのように左右するか。元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は双方が行った精神鑑定の医師の証言が重要になるとしています。検察側は妄想症という精神障害を認めているものの、責任能力があったとする具体的な説明ができるか。弁護側は犯行前後の合理的な行動もある中で、警察官の殺害を含めて全て妄想によるものだったのか立証できるのかがポイントとなります。 今後、裁判はどのように進められるのか? 裁判は4日から12日間の審理を経て10月14日に判決が下されます。証人は10人ほどが出廷するとみられていて、5日は母親が証言する予定です。どのように争点となる責任能力が判断されるのか、そして被告が何を語るのか、注目されます。