ひときわ発信力のあった経済人を巡る薬物疑惑に、驚きを禁じ得ない。 購入したとされるサプリメントが違法である疑いを受け、サントリーホールディングス(HD)の会長を新浪剛史氏が、辞任した。 新浪氏は8月、大麻由来の成分テトラヒドロカンナビノール(THC)を一定量以上含む違法なサプリの捜査に関連し、自宅などを警察から家宅捜索された。 だが、違法な薬物は見つからず、尿検査も陰性だった、とされる。「法を犯しておらず潔白」と違法性を否定している。 同社は日本を代表する食品関連企業で、自社のサプリも扱う。サプリ購入時に払うべき注意を怠り、疑義を生じさせたこと自体がトップの資質を欠くと、他の全取締役が辞任を求めたという。新浪氏も「不用意」と認めており、職を辞するのはやむを得まい。 THCは幻覚作用があり、基準値以上を超えるものは麻薬となり、不正な所持や輸入、使用が違法だ。これを輸入した疑いで逮捕された男から、新浪氏宅へ郵送の記録があり、疑いが浮上した。 新浪氏は、米国で適法なサプリを入手したが、友人に日本へ送るよう預けた後、「受け取っていない。捜査対象の品と同一かも分からない」と説明している。 違法成分を含むサプリはインターネット上で売買情報が飛び交い、安易に手を出す人もいる。真相の究明とともに、国内の実態を把握し、対策を講じたい。 事件との関わりはまだ不明ながら、辞任に至ったのは、経営幹部の不祥事が企業価値の毀損(きそん)に直結するとの危機感からだろう。昨年10月、オリンパスの社長兼最高経営責任者(CEO)が警察の捜査を受けて辞任している。 新浪氏は、サントリーHDのトップに、創業家以外で初めて就いた。人口減少により国内市場が縮小するのを見越し、酒類や清涼飲料などの海外事業を拡大させた。ローソン社長を経た「プロ経営者」の思わぬ途中退場は、企業のイメージや業績への悪影響を最小限に抑えたいとの判断だろう。 経済同友会の代表幹事や、政府の経済財政諮問会議の議員を務め、積極的な賃上げや法令順守を経営者に求めるなど財界の顔として発言が注目された。代表幹事の活動は自粛し、同友会の判断に委ねる。政府の職務も同様という。 いずれも公共性の高い立場であり、疑義を抱えたままではその力を発揮し得ないのではないか。