約18億円の米警察向け「AI監視システム」、3年経っても「ほとんど機能せず」

米カリフォルニア州サンマテオ郡が導入したAI監視システムは、1200万ドル(約18億円。1ドル=147円換算)を投じたにもかかわらず成果を上げていない。現場の警官は実用性を実感できず、プロジェクトは停滞している。開発を担ったのはビリオネアのトム・シーベル率いるC3 AIで、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)も関与していた。米国で普及が進む「リアルタイム・クライムセンター」構想を象徴する案件だったが、官僚的障害や技術的問題に阻まれている。輝かしいハイテク構想は、なぜ厳しい現実に突き当たったのか。その失敗の本質を探る。 ■郡内15機関の警察データをAIで統合――プロジェクトシャーロックの狙い 2022年6月、サンマテオ郡保安局はコヨーテ・ポイント射撃場で内輪の親睦イベントを開き、新たな監視システムの開発を共に進めていた同局のITチームと、ビリオネアのトム・シーベルが創業した時価総額が24億ドル(約3530億円)のC3 AIのスタッフらを招いていた。このシステムは郡内の複数の機関の警察データを1つのアプリに統合することを目的とするものだ。昼食の後、C3 AIのスタッフらは、警官たちが訓練を行うのと同じ射撃場で標的射撃を体験した。この会場が選ばれたのは偶然ではない。シーベルの財団は2018年にこの射撃場の改修費として450万ドル(約7億円)を郡に寄付していた。 保安局は、C3 AIとその長年のパートナーであるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と緊密に連携しながら、同局が管轄する少なくとも15の機関が、ナンバープレートリーダーや監視カメラ、逮捕記録、911通報、過去の警察データベースから集めたデータを一元化しようとしていた。アーサー・コナン・ドイルの探偵小説にちなみ「プロジェクト・シャーロック」と名付けられたこの計画の中核にはAIが据えられ、データをつなぎ合わせ、捜査の手がかりを提示し、現場の警官に状況認識を与えることが期待されていた。この計画の最終目標は、警察の地道な作業を劇的に効率化することだった。 C3 AIにとって、シャーロックは同社の地方自治体向け事業を代表する契約になるはずだった。それほど重要な案件であったため、シーベル自身もこの取り組みの初期の段階から深く関与し、自らが契約書の一部を執筆して、サンマテオの警官をレッドウッドシティの本社に招待するほどだった。

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