「揺さぶられっ子症候群」で虐待を疑われた“無実の親”はなぜ生まれたのか…「元弁護士の報道記者」が映画監督として伝えたかったこと

「揺さぶられっ子症候群」(通称SBS)という言葉をご存じだろうか。乳幼児の上半身を前後に激しく揺さぶることで頭部に強い回転性の外力が加わり、脳の中などに損傷が生じる症候群のことだが、2010年以降、これを理由に多くの保護者が「虐待」の疑いで逮捕、起訴された。だが、後にこのSBSの認定を巡って裁判の中で疑義が生じ、「逆転無罪」となるケースが相次いだ。この冤罪(えんざい)被害者を取材してきた関西テレビの報道ディレクター・上田大輔さん(46)は、これまでの取材をもとに映画「揺さぶられる正義」(9月20日公開)を監督した。元弁護士でありながら報道記者になったという異色の経歴を持つ上田さんは、なぜSBSに焦点を当て映画をつくったのか。取材を続ける中で「揺れ動いていた」という思いを聞いた。 * * * ――弁護士から記者になったという異色のキャリアです。 司法試験を受けて弁護士になってから記者に転身した人は、僕以外にいないと思います。結果的にこうなりましたが、僕はあえてこの道を選んだわけではないんです(笑)。 メディアやエンタメの世界に関心があり、著作権法に詳しい弁護士になろうと社内弁護士として関西テレビに入りました。2009年に入社して、法務・コンプライアンス部門に所属しました。ほどなくして村木厚子さんが無実の罪に問われた「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」などが起こりましたが、この事件に限らず、当時は社内の記者がいろいろなことで私に相談にやってきたんです。その都度、自分なりに「こういう視点で取材をしたらどう?」とアドバイスをしていました。でも、心のどこかで「僕だったらこうするのにな」とか「もうちょっと刑事司法に踏み込んだ取材ができるんじゃないかな」と思うようになったんです。 ――記者魂が早くから芽生えたと。 弁護士であるにもかかわらず、「一回失敗してもいいからやってみたい」という気持ちが出てきたんです。それで、近くにいた記者出身の先輩にポロッと言ったところ、「君みたいなのは、一回やってみたらいいねん」と言われました。それで僕は「こういうドキュメンタリーをつくってみたい」「ああいう番組がやりたい」と4年間ずっと言い続けたんです。そうした話が広まったのか、2016年にめでたく報道局へ異動できました。とはいえ、その時点ですでに37歳。当時は、記者経験のない中年の新人を周囲は「扱いづらいな」と思っていたと思います(笑)。

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