英ロンドン中心部で13日、極右活動家が呼びかけたデモに15万人以上が集まり、これに対抗する人たちのカウンター・デモに約5000人が集まった。双方を引き離そうと警官隊が警備にあたり、24人を逮捕。警察によると、警官26人が負傷し、そのうち4人が重傷を負った。この事態を受けてキア・スターマー首相は14日、イギリス国旗は「この多様な国」の象徴であり、旗を暴力と恐怖と分断のシンボルにしようとする勢力に決して「明け渡さない」と宣言した。 極右活動家トミー・ロビンソン元受刑者(42、本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)が、イギリスの国名の一部「United Kingdom(連合王国)」をもじって「Unite the Kingdom(王国を連合させろ)」と名付けたデモには、約15万人が参加した。対抗する団体「人種差別に立ち向かおう」によるカウンター・デモには約5000人が参加した。 13日午後のロンドン中心部は、イギリス国旗(ユニオン・ジャック)を振る人であふれた。イングランド国旗も目立った。スコットランド国旗やウェールズ国旗を振る人たちもいた。 イギリスで今年の夏、大きな争点となった難民申請者のホテル収容と、そうしたホテルに収容されていたエチオピア出身男性が地元少女に対する性的暴行の罪で有罪となった問題を踏まえ、ロビンソン氏はイギリスの裁判所が地域社会の住民の権利より、不正規移民の権利を重視していると批判した。 ロンドン官庁街ホワイトホールで行われた13日の抗議集会には、かねてロビンソン氏を支持してきた米富豪イーロン・マスク氏がビデオリンクで参加。マスク氏は、「とてつもない規模で無軌道に行われている、大規模な移民」に言及し、イギリスに「政権交代」が必要だと呼びかけた。ロビンソン氏の質問に答える形でマスク氏は、「議会を解散して新しく投票する必要がある」と主張。「反撃」するか「死ぬ」かだとも、抗議参加者たちに呼びかけた。 抗議行動は午後の早い段階ではおおむね平和的だったものの、時間がたつにつれて緊迫の度合いが増した。ロンドン警視庁によると、デモ隊の一部は警官隊にびんなどを投げつけた。 抗議集会は午後6時半過ぎに終わり、ロビンソン元受刑者は同じようなイベントを再び行うと約束した。 42歳のロビンソン元受刑者は昨年10月、一人のシリア難民の名誉を毀損する虚偽の主張を止めるよう裁判所に命じられたが命令に従わなかったため、収監された。今年5月末に釈放されていた。 ■「イギリスは寛容と多様性と尊重の国」と首相 この事態を受けてスターマー首相は14日午後、「人には、平和的に抗議する権利がある。それはこの国の核心的な価値だ」と述べた。その上で、「職務を遂行している警察官を襲う行為は、認めない」と強調。さらに、「人がその出自や肌の色を理由に、街頭で脅かされるような、そのような状況は認めない」と述べた。 首相は続けて、「イギリスは、寛容と多様性と尊重の上に、誇り高く築かれた国だ。私たちの旗は、私たちの多様な国を表すもので、その旗を暴力と恐怖と分断のシンボルとして使う者たちに、旗を決して明け渡したりしない」と表明した。 ■「暴力を目的とした者も」と警察 週末の抗議活動に向けて、警察は大規模な警備体制を敷いた。ロンドン警視庁は警官約1000人を投入。レスターシャー、ノッティンガムシャー、デヴォン・アンド・コーンウォールなど他の管轄からも、500人が応援に加わった。 マット・ツイスト副警視総監は、「合法的な抗議の権利を行使するために来た人が多かったのは疑いないが、暴力を目的として来た者も多かった」と述べた。 抗議活動は13日午後2時頃まではおおむね平穏だったが、次第に緊張が高まり、両陣営の衝突を防ごうとする警察官が攻撃された。 警視庁によると、官庁街ホワイトホールのあちこちで、デモ隊が柵や足場をよじ登るなどした。騎馬警官隊の馬にガラスのびんが当たって割れ、馬がよろめく場面もあったという。 ロビンソン氏が主催した行進には、官庁街ホワイトホールに収まりきらないほどの人数が集まった。このグループが、カウンター・デモの参加者たちを包囲しようとしたため、警官隊が阻止しようすると、衝突が起きたという。 ロンドン警視庁によると、騎馬警官たちがデモ隊を押し戻すために警棒を使い、警察官が蹴られたり殴られたりした。 逮捕された24人のうち3人は女性で、残りは男性だった。最年少は19歳、最年長は58歳だったという。複数の容疑で逮捕された人もいた。 ツイスト副総監は、負傷した警官たちは歯が折れたり、脳震盪(のうしんとう)を起こしたりしたと話した。椎間板を痛めた警官や、頭部に負傷した警官もいるという。 副総監は、これまでの逮捕は「始まりに過ぎない」として、騒乱に参加した人々の身元特定を進めていると強調した。 シャバナ・マムード内相は、「警官を襲い負傷させた者たち」を非難。「犯罪行為に参加した者はだれだろうと、全面的に法の裁きを受けることになる」と述べた。 ■「国民の不安に乗じている」と閣僚 スターマー政権のピーター・カイル・ビジネス貿易相は14日午前、首相の発言に先立ち、BBCの朝の情報番組でデモ隊は「集会の自由と表現の自由」を行使しているのだと述べた。 さらに、ロビンソン氏が組織した今回のデモは政権にとって「警鐘」で、移民問題を含め国民が重視する懸案にいっそう取り組まなくてはならないと呼びかけるものだと位置づけた。 カイル氏は「私が何より心配なのは、私たちのこの国やほかの国の社会、ほかの民主的な社会で起きている分断は(中略)今では左と右の分断でさえないということだ」と話した。 「トミー・ロビンソンのように、社会のコミュニティーに広がる不安感や不満に乗じることができる存在がいる」と、カイル氏は指摘した。 デモに参加して暴力行為を働いた「ごく少数」の者たちは、法的責任を問われることになるとも、カイル氏は述べた。 ビデオリンクで抗議集会に参加し、イギリスの政権交代を求め、「反撃するか」「死ぬか」だと参加者に呼び掛けたマスク氏については、その発言の一部は「まったく不適切だった」とカイル氏は批判した。 (英語記事 We will never surrender our flag, Sir Keir Starmer says / Dozens of officers injured as up to 150,000 join Tommy Robinson rally