SNSで緩やかにつながり、特殊詐欺などの犯罪を行う「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」を巡り、警察当局は10月、首謀者の摘発に向け、情報の集約・分析機能強化や専従捜査部隊新設を柱とする組織改編をする。 これに先立ち、露木康浩前警察庁長官が時事通信の取材に応じ、トクリュウ対策の重要性を説くとともに「(改編が)機能すれば相当な実績が挙がる」と強い期待を示した。 露木前長官は「組織犯罪対策の要は中枢人物を検挙し、組織を無力化することにある」と強調。暴力団に対しては、組長や幹部への重点的な取り締まりなどが効果を挙げ、弱体化させることに成功したと語る。 一方で、秘匿性の高いアプリを駆使し、SNSで実行役を集めるトクリュウは、組織実態や中枢人物がはっきりせず、「これまでのやり方は通用しない」と断言。特殊詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)、強盗など、トクリュウが資金源とする犯罪の摘発強化に加え、捜査で得た情報を幅広く集約・分析し、首謀者や指示役の存在を浮き彫りにする必要があると話した。 そのため、全国の情報を集約・分析する部署を警察庁に新設したり、捜査対象選定や摘発の戦略立案に当たる「対策本部」を警視庁に立ち上げたりする今回の改編は、「組織横断的な取り組みで理にかなっている」と評価した。警視庁が450人規模のトクリュウ捜査専従部隊「特別捜査課」を新たに置き、全国の警察本部から捜査員が出向する体制も整い、「相当な実績が挙がると思う。まさに的を射た政策だ」と期待を寄せた。 ただ、課題も残る。海外を拠点に活動するトクリュウの捜査に立ちはだかる「国境の壁」がその一つだ。露木前長官は、拠点が置かれる各国の捜査機関との連携の重要性を指摘。恒常的な協力態勢の構築や、警察庁の国際捜査部門の拡充を通じて包囲網を敷けば、「(トクリュウの)弱体化につながる」と語った。 トクリュウが秘匿性の高いアプリなどの技術革新の恩恵を享受する一方、通信傍受による現行の取り締まりの枠組みは旧来の電話やメールを想定したもので、「実態が先行し、法制度が追い付いていない」とも訴えた。 トクリュウによる犯罪被害の防止策強化も重要で、フェイスブックやインスタグラムが著名人をかたった詐欺広告の削減に取り組み、効果を挙げたケースが参考になると説明する。プラットフォーム事業者が、特殊詐欺で使われる偽逮捕状の画像を人工知能(AI)で検知、警告する対策に力を入れるなど「犯罪をやりにくい環境があれば、抑止効果が期待できる」と話した。 露木前長官は、捜査の手法や体制、被害防止策などは常に見直し、改善する必要があると指摘。真に実効性のあるものにするために「問題の本質をきちんと見る必要がある」とし、「前例」と「世の中の批判を恐れる気持ち」にとらわれてはならないと訴えた。