青森県八戸市の「みちのく記念病院」内で起きた入院患者による殺人事件を隠蔽(いんぺい)したとして、犯人隠避の罪に問われた当時の院長(62)をめぐり、青森地裁で25日に始まった初公判。いまも多くの謎が残る犯人隠避事件が発覚するまでの経緯を確定判決や起訴状などからたどる。 同病院の入院患者の男(60)=殺人罪で懲役17年が確定=が同室にいた男性を殺害――。これが元院長が裁判の被告になるきっかけの事件だった。 男は2022年7月、アルコール依存症などの治療のために入院した。男は他の入院患者とのトラブルを繰り返し、両手をベッドの柵に縛り付けられることが複数回あった。男はこれに耐えきれず「人を殺害すれば警察に逮捕されて直ちに退院できる」と考えるようになった。 男は23年3月、同じ病室に入院していた男性(当時73)の目に歯ブラシの柄を突き刺すなどして殺害。24年7月に青森地裁で懲役17年の実刑判決を受け、確定した。 ■事件隠蔽のため、うその死亡診断書交付か 病院内の患者間で起きた異例の殺人事件。しかし、病院側はこの事件について青森県警にすぐ通報しなかった。 病院側は事件直後、隠蔽行為を繰り返していたとされる。殺害に及んだ男を、入院していた療養病棟から閉鎖病棟に移した。亡くなった男性の遺族に対しても、病院側は当初、「(男性が)転んだ」などとうその説明をしたうえ、死因を「肺炎」とする虚偽の死亡診断書を渡していたとされる。それでも事件が発覚したのは、こうした対応を不審に思った病院職員が、事件の翌日に県警に通報したからだ。 青森地検は25年3月、殺人事件があった当時の院長、石山隆被告(62)と、弟で医師の石山哲被告(60)を犯人隠避の罪で起訴した。 起訴状などによると、両被告は事件を隠蔽しようと共謀し、警察に事件を届け出ず、男性の死因を「肺炎」とするうその死亡診断書を遺族に交付したなどとされる。 両被告は、逮捕された後の県警の捜査に対して容疑を否認していた。病院側による隠蔽行為に両被告の関与があったのかは、まだ明らかになっていない。 ■疑惑の「死亡診断書」 事件に絡む謎はほかにもある。 遺族に渡されたうその死因を書いた死亡診断書は、認知症の症状が出てこの病院に入院中だった男性医師(後に死亡)の名義で書かれていた。しかし、この男性医師は病状が悪化し、会話をしたり署名したりするのが難しい状態だったという。 同病院を県警が捜索した際、院内からこの男性医師の名前で書かれた大量の死亡診断書が押収されている。病院では、日常的に虚偽の死因を書いた死亡診断書が作成されていた可能性もある。ただ、病院側がなぜそうした行為に及んでいたのかわかっていない。(浅田朋範)