三重県松阪市飯高町で風力発電を計画する再生可能エネルギー発電事業「リニューアブル・ジャパン」(東京都港区)の元社長が6月、奈良県吉野町の太陽光発電事業を巡る贈収賄事件で同県警に逮捕された。飯高町での風力発電計画の撤回を求める地元の「まつさか香肌峡環境対策委員会」は「事業の透明性と倫理性に重大な疑惑を抱かせるものであり、地元住民として到底看過できるものではありません」と猛反発している。 奈良県警は6月16日、同県吉野町で同社が進める太陽光発電事業に絡む収賄容疑で同町議の西沢巧平容疑者を、贈賄容疑でリニューアブル社の元社長、眞邉勝仁容疑者ら2人を、それぞれ逮捕した。 西沢容疑者は10期目で議長を8回も務めた。逮捕容疑はおととし9月、町議会に太陽光パネル税の導入議案を提出しないなどの便宜を図り、見返りに眞邉容疑者らから現金200万円を受け取った疑い。 真邉容疑者は東京都出身。米国マサチューセッツ州立大学経営学部を卒業後、リーマン・ブラザーズ証券など外資系金融機関を経て米運用会社ザイス・ジャパン社長に就いた。東日本大震災の被災地へ、太陽光をエネルギー源とする浄水設備を届けたことをきっかけに平成24年、リニューアブル社を設立した。東急不動産に買収され、今年1月から子会社になっている。 ■ ■ リニューアブル社は逮捕の翌17日、「誠に遺憾であり、重く受け止めております。関係者の方々にはご心配をおかけしており、深くおわび申し上げます」とするニュースリリースを発表。同社役員らが6月25日、松阪市役所を訪れ、担当部長らに陳謝した。 竹上真人市長は「事業者の話なので口を挟めない。コメントはない」と語る。 一方、同委員会の成岡篤史委員長は7月7日、同社の親会社、東急不動産に対し、「本計画に対して『環境破壊』『健康被害』『生活環境の悪化』などを理由に、白紙撤回を強く求めてまいりましたが、今回の事件を受け、事業の根幹に関わる倫理性・法令遵守の観点からも、再検討を強く求める立場をより明確にするものです」と申し入れた。 ■ ■ 同市飯南町では、同社が白猪山周辺で「(仮称)松阪飯南ウィンドファーム発電所」を計画。反対する地元が提出した「山頂付近の市有地への建設を承諾しないよう求める請願」が平成29年、同市議会で採択された。 同市飯高町では、同社を母体とする合同会社が「(仮称)三重松阪蓮ウィンドファーム発電所」を計画。令和3年7月に公表した環境影響評価(アセスメント)手続きの第一段階に当たる環境配慮書では、風力発電機を最大60基設置し、国内最大規模となる。事業想定区域が室生赤目青山国定公園と香肌峡、奥伊勢宮川峡両県立自然公園に指定されている。 経済産業大臣意見は、各論8項目のうち騒音▽土地改変▽鳥類▽植物・生態系▽景観▽人と自然との触れ合いの活動の場―の6項目で「重大な影響が懸念される」として、「重大な影響を十分低減できない場合は、本事業の取りやめも含めた事業計画の抜本的な見直し」を求める厳しい内容だった。 同社は同4年9月、「事業計画の見直しを行っている」「自然公園の特別地域には風力発電機は設置しない」「令和4年度中の方法書の公表に向け鋭意計画の精度を高めている」と説明したが、見直した方法書は公表されていない。 飯高町波瀬、森、川俣の住民自治協議会は計画に反対し、付託を受けた同委員会が反対署名を集め、同年5月に署名3万6675筆を市へ提出。同市議会は同年10月、建設計画に反対する請願を採択している。 その際、事業者見解が同市に示され、「筆数は非常に多いものではありますが、自由な民意が反映された上での署名収集であったかという点においては甚だ疑問を感じております」と意見している。元社長逮捕で、地元の事業者に対する不信感が増幅している。