磯村勇斗(33)が民放連ドラ&GP帯初主演を務めるオリジナルドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない(ぼくほし)』(フジテレビ系、関西テレビ制作)の最終回が9月22日に放送され、“カンテレ無双”といった賞賛の声が寄せられている。 本作は、独特の感性を持つがゆえに人生にも仕事にも臆病だった弁護士・白鳥健治(磯村)が主人公。少子化による共学化で揺れる私立高校に学校で発生するさまざまな問題について助言や指導を行う“スクールロイヤー(学校弁護士)”として派遣され、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、不器用ながらも必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマだ。 「スクールロイヤーが法律を武器に学校の問題をスカッと解決する単純明快な学園ドラマにすることもできたと思う。しかし実際の教育の現場は、どうにもならない問題が山ほどあります。自身も学生時代にイジメられて不登校になった健治が、個人情報の漏洩や教育虐待といった問題に直面。“みちしるべ”を示して寄り添い、生徒たちのために一歩前に踏み出す。こうした繊細な役どころを磯村が見事に演じて魅せました」(制作会社プロデューサー) 成功した要素の1つめは、やはり磯村をGP帯初主演に抜擢したことだろう。 ’23年、実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした問題作『月』で、狂気を秘め犯行に及んだ“さとくん”役を演じて、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した磯村。映画化もされたLGBTQを扱った『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、映画『正欲』では独自な性的嗜好を持つ役どころを演じ今や若手の中で異色の輝きを放つ。今作では彼の存在感が、見事にハマったと言っても過言ではない。 そんな磯村とガップリ組むのが、次世代を担う新進気鋭のニューカマーたちだ。他の学園モノとは一線を画すキャスティングが2つめの成功要素だ。 「配信ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)はじめ、出演作が目白押しの南琴奈。映画『PERFECT DAYS』でカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩いた中野有紗。映画『サユリ』でヒロインを務めた近藤華。初主演映画『僕のお日さま』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。大ヒット映画『国宝』にも出演する越山敬達など、映画の世界で活躍する若手俳優が演技を競うことで、過去の“学園ドラマ”とは一味も二味も違う深みを与えることができました」(制作会社ディレクター) さらにもうひとつ忘れてはならない3つめの成功の要素は、この物語の底流に流れている「宮沢賢治の世界」だ。 ◆“カンテレ無双”のワケ 脚本制作を進めるうちに、主人公のキャラクターとともに天文部、そして教育者でもあった宮沢賢治の要素を加えることで、第9話から最終話に向けて物語は大きなカタルシスを得ることができた。 「第10話では大学への推薦が決まった生徒会副会長の斎藤瑞穂(南琴奈)が、大麻所持の容疑で逮捕されるという耳を疑うような知らせが飛び込みます。無実を証明するために、健治はスクールロイヤーの仕事を投げ打って、斎藤の付き添い弁護士となり不処分を勝ち取ります。さらに、生活指導と演劇部顧問から外され学校を訴えると息巻く山田美郷先生(平岩紙)の弁護人も引き受け、学校のトラブルを収め去っていく。その姿は『銀河鉄道の夜』で、“ほんとうのさいわい”を探し求める主人公の少年ジョバンニのようで心が熱くなりました」(前出・ディレクター) 来年は、宮沢賢治生誕130年。殺伐とした事件が横行、分断と排除の気配が漂う世の中で、「ほんとうのさいわい」=「自己犠牲の精神」を説く宮沢賢治の存在感は、ますます高まるばかり。その精神をひと足先に“学園ドラマ”に取り入れたことが本作を成功に導いたカギではないか。 思えば’22年、長澤まさみ主演でセンセーションを巻き起こした『エルピスー希望、あるいは災い―』。’24年、奈緒と木梨憲武のW主演で涙を誘った『春になったら』。そして同じく‛24年、杉咲花が記憶障害の脳外科医を熱演した『アンメット ある脳外科医の日記』。この3作が、日本民間放送連盟賞の番組部門において3年連続最優秀賞を受賞。ドラマ界で、次々に金字塔を打ち立てている関西テレビ。 “カンテレ無双”は、まだまだ続きそうだ――。 取材・文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)