「被告人が犯人であるという一審の事実認定に誤りはなく、不合理な点は見つからない」 こう裁判長が言い渡した判決を、被告はあふれ出る大量の汗をハンカチで拭いながら聞いていたという。 10月1日、東京高裁が懲役19年の一審判決を支持し、控訴を棄却したのは殺人の罪に問われている元長野県議会議員・丸山大輔被告(51)に対してだ。丸山被告は長野県塩尻市の自宅兼酒蔵で、妻のAさん(当時47)を殺害したとされる。丸山被告は逮捕直後から一貫して無罪を主張。事件には、いまだに不可解な点が多い――。 「事件が発覚したのは’21年9月29日の早朝です。Aさんが、酒蔵に隣接する自宅事務所の1階であおむけに倒れているのを息子が発見。警察に110番通報しましたが、すぐに死亡が確認されました。司法解剖の結果、死因は首を絞められたことによる窒息と判明しています」(全国紙社会部記者) ◆「母ちゃんがヤバい」 県警は140人態勢で調べを進めたが、物証が少なく捜査は難航。周辺の聞き込みや防犯カメラ映像などを解析し少しずつ捜査対象を絞り込み、丸山被告が逮捕されたのは事件から1年以上たった’22年11月だった。 警察に対し容疑を否認していた丸山被告。一方で逮捕直前の’22年9月には、集まった報道陣に対応し次のような意味深発言をしていたという。 〈(事件が発覚した当日)朝7時ごろ、息子から「母ちゃんがヤバい」という電話がありました。(犯人について)処罰というより何があったのか知りたいです。(Aさんとの関係は)何十年も仲の良い夫婦は気持ち悪いなっていうのはあります〉 前出の社会部記者が語る。 「丸山被告は、自身のアリバイについて『(事件発覚当日は)県議会に出席するため、長野市内の県議会館に泊まっていた』と説明していました。確かに丸山被告は、前日の9月28日の夕方から同僚議員らと酒を飲み夜11時半ごろまで議員会館に滞在していたことはわかっています。 しかし丸山被告の車の走行データやドライブレコーダーなどから、議員会館から約80㎞離れた塩尻市の自宅まで往復2時間以上かけて移動していたことも判明している。警察は29日の未明にAさんを殺害し、再び議員会館へ戻ったとみていたんです」 ◆「パソコンの電源はずっとオン」 明らかな犯行動機は不明だが、丸山被告が社長を務めていた酒蔵の経営状態はかんばしくなく警察は夫婦間にトラブルがあったとして捜査を進めていた。 元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。 「私は現地で取材しましたが、起訴内容が事実なら丸山被告は用意周到だなと感じました。まず議員会館と塩尻市の自宅を移動する間、Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)を避けて走行していたようです。自宅に戻ったことを悟られたくなかったのかもしれません。 また議員会館自室のパソコンの電源は、事件前後ずっとオンになっていました。しかし文書などを作成した実態がない。議会に提出すべき文書は、その前に作ってあったんです。パソコンの電源を入れていたのは、アリバイ作りのための偽装ととられてもおかしくないでしょう。私の見立てが合っていたとしたら、計画的犯行といえます」 冒頭の控訴審判決後、丸山被告側はすぐに上告した。