「第26回東京フィルメックス」オープニングはヴェネチア女優賞『太陽は我らの上に』

「第26回東京フィルメックス」の開催が決定し、オープニング&クロージング作品が発表。また、プレイベントとして香港ニューウェーブ重要作を上映する。 毎年、新しい出会いに満ち、映画の未来を照らしてきた国際映画祭「東京フィルメックス」。 本映画祭は、アジアを中心に世界から新進気鋭の監督たちの作品を集め、どこよりも早く、ここでしか観られない注目作品がラインアップされる国際映画祭。 ◎オープニング作品:ヴェネツィア女優賞『太陽は我らの上に』 今回のオープニング作品はツァイ・シャンジュン(蔡尚君)監督の『太陽は我らの上に』。2011年のフィルメックス特別招待作品『人山人海』、2017年のコンペティション作品『氷の下』に続くツァイ・シャンジュン監督の長編第4作。 9月のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、主演のシン・ジーレイが最優秀女優賞に輝いた話題作。 きっかけは、病院での偶然の再会だった。かつて恋人関係にあったメイユンとバオシュウは、長い別離を経て、再びお互いの人生に深く関わることになる。 メイユンには既婚者の恋人がおり、彼の子どもを妊娠したばかり。だが、刑務所を出て同じ街で暮らすバオシュウが末期がんだと知り、メイユンは彼を自らのアパートに迎え入れ、治療に専念させようとする。 本作では、共通の秘密によって痛ましくも絡み合った男女の愛憎が描かれる。数年前、男は女の犯した罪の責任を被って入獄した。しかし、わずか1年ほどで、女は新しい人生を始めてしまう。刑期を終えた男は、自己犠牲が無駄に終わり、愛が憎しみへと変化した世界へと足を踏み出す。 ◎クロージング作品:ベルリン監督賞『大地に生きる』 クロージング作品はフオ・モン(霍猛)監督の『大地に生きる』。急速に変化する1990年代の中国農村部を10歳の少年の目から描いた監督の長編第3作。今年2月のベルリン国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、最優秀監督賞を受賞している。 1991年の中国。3人きょうだいの末っ子チュアンは、家族と離れ、別の村の親戚に預けられる。両親が兄姉を連れて南部の都市・深センに出稼ぎに行くことになったからだ。 大家族のなかで元の苗字のまま生活している彼は、村に完全な帰属意識を持つことができずにいたが、それでも曾祖母やおばの愛情に包まれながら日々を過ごす。10歳の少年の目を通して、激動期の中国の知られざる一面が描かれていく。 本作では春から冬にかけての農村の日常が、観察的な視点で描かれていく。当時の中国は工業化が急速に進行していたが、主人公の少年の暮らす農村には電話も近代的な農業機械もなく、村民たちは外界からほぼ隔絶された状態にある。 映画は筋書きよりも、葬儀や結婚式といった人生の節目の出来事を通して展開。登場人物たちはそれらの出来事に巻き込まれ、彼らが望むと望まざるとに関わらず、不確かな未来へと導かれる。その過程で、健全なものもそうでないものも含め、彼ら・彼女らがどのように物事を受け止め、重労働から政治的抑圧に至るまで様々な苦難にいかに対処し、続けているかが明らかにされていく。 ありふれた人間ドラマでありながら、季節が移り、人生が続いていく中で、両親や上の世代の辛苦を新しい世代がどう受け継ぐのかという問いに、抵抗と絶望の間で揺れ動きつつも、この作品は真摯に向き合っている。 なお、メインビジュアルも初公開。昨年に続き、今年も映画祭メインビジュアルをデザイナーのIKKI KOBAYASHIが担当。10日間の開催期間中、映画祭のシンボルとして、観客を迎える。 ◆プレイベントは香港ニューウェーブ一挙上映 本祭に先駆けて11月14日(金)~11月18日(火)にはプレイベントを今年もヒューマントラストシネマ有楽町で開催。 今回は香港で話題の現代ビジュアルカルチャー美術館「M+(エム・プラス)」が修復した「香港ニューウェーブ」の重要作品3本を一挙上映する。香港映画界はもちろん国際的にも大きな影響を残した新潮流の最初の一波をスクリーンで目撃するチャンス。 「M+」は「シャネル(CHANEL)」の支援を受けて映画修復プロジェクト「M+ Restored」を2023年7月に立ち上げ、「香港ニューウェーブ」の重要作品の4Kデジタル修復に取り組んでいる。今回の上映作品はその最初の成果となる。 『董夫人 レストア版』 南カリフォルニア大学で学んだ女性監督・唐書璇(トン・シューシュン/セシリア・トン)の初監督作にして代表作。香港の既存の映画産業外で製作され、香港の独立作品として公開された最初の映画でもある。 17世紀中国を舞台に、夫の死後も婚家に尽くしていた董(とう)夫人が、自宅に滞在する兵士への恋情と貞淑を重んじる道徳規範との間で引き裂かれる。1969年のカンヌ国際映画祭の第1回監督週間などで上映、1971年の金馬奨で女優賞など4冠を受賞した。 『ザ・システム レストア版』 撮影監督として活躍し、インディペンデント映画の先駆者でもあった翁維銓(ピーター・ユン)の長編監督デビュー作。 キン・フー作品の常連俳優・白鷹(パイ・イン)演じる麻薬取締捜査官が、様々な権謀術数を駆使して麻薬王の逮捕に挑む姿をスリリングに描く。ドキュメンタリー制作の経験を生かし、警察・情報提供者・麻薬密売人の複雑な関係性や攻防をリアルに描いた画期的な犯罪ドラマ。 『愛殺 レストア版』 ウォン・カーウァイ監督の『欲望の翼』などの編集でも知られる香港ニューウェーブ初期の代表的監督・譚家明(パトリック・タム)の鋭い才気が爆発するサイコスリラー。 サンフランシスコを舞台に、失恋した友人を助けようとした女子大生が思わぬ恐怖に巻き込まれる様を大胆な色彩設計で描く。ヒロインを演じるのはブリジット・リン(林青霞)。ウォン・カーウァイ作品に欠かせない才人ウィリアム・チョン(張叔平)の美術監督デビュー作でもある。 「第26回東京フィルメックス」は11月21日(金)~11月30日(日)有楽町朝日ホール、ヒューマントラストシネマ有楽町にて開催(全10日間)。 「第26回東京フィルメックス プレイベント 香港ニューウェーブの先駆者たち:M+ Restored セレクション」は11月14日(金)~11月18日(火)ヒューマントラストシネマ有楽町にて開催(全5日間)。

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