[ロンドン発]2014〜17年、中国で最大300%の利回りを約束する投資商品を売りさばき、12万8000人以上からだまし取った巨額資金で暗号資産ビットコインを買った「中国のビットコイン女王」が9月29日、サザーク刑事法院で有罪を認めた。量刑審理は11月に行われる。 中国人女性ジーミン・チアン被告(47)で、これまでに6万1000ビットコインが押収された。ビットコインは史上最高の12万5000ドル超を記録。時価にして76億2500万ドル。日本円にしてなんと約1兆1650億円という世界史上最大の暗号資産押収事件になった。 暗号資産を使って犯罪収益を移転した罪に問われた。暗号資産を扱ったり、チアン被告の逃亡を助けたりした「執事」の ホック・セン・リン被告(46)も9月30日、同刑事法院で有罪を認めた。2人は昨年4月に逮捕され、暗号資産やウォレット、金、現金が押収された。 ■「被害者の損失を支払うのに十分な資金が残っている」 この事件では昨年5月、150ビットコインを移動させた共犯者ジアン・ウェン被告がすでに禁錮6年8月の有罪判決を受け、約312万ポンドを差し押さえられている。 英BBC放送によると、チアン被告の弁護人は「暗号資産の価値が大幅に上昇しているため、被害者の損失を支払うのに十分な資金が残っている」と話している。 50〜75歳の企業経営者、銀行員、司法関係者らが友人や家族の紹介で「富の女神」と呼ばれていたチアン被告のスキームに数十万〜数千万人民元を投資。被害総額は400億元。チアン被告はこのうち11億元(236億円)をビットコインに換え、偽造書類を使って英国に逃亡した。 英国でチアン被告のマネーロンダリング(資金洗浄)を手伝ったウェン被告は妊娠中の2007年に配偶者ビザで英国に移住。法律のディプロマ課程と経済学の学士課程を修了したものの、リーズやロンドンの中華料理ファーストフード店で働く貧しいシングルマザーだった。 ■人生が一変。贅沢三昧の日々を満喫 ウェン被告はファーストフード店地下のベッドルームで暮らし、年収は5979ポンド。しかしチアン被告と出会って人生は一変。2万5000ポンドのメルセデス・ベンツ・Eクラスを乗り回し、高級百貨店ハロッズで月3万ポンドの買い物をするようになった。(1ポンド=204円) 家賃1万7000ポンドと6カ月分の前払金、 4万ポンドの頭金を支払ってハムステッド・ヒースそばの6ベッドルーム邸宅(実勢価格500万ポンド相当)に引っ越した。息子を一学期6000ポンドもする名門学校に通わせた。 宝石商オーナーになりすましドイツ、ローマ、チューリヒ、ノルウェー、タイ、中国、日本を観光旅行。ドバイでは50万ポンド以上でマンション2戸を購入、海岸沿いのトスカーナ風ヴィラ(1000万ポンド)の入札も検討するほど贅沢三昧の日々を満喫していた。 ■「犯罪収益」か「第三者の被害資産」か 2300万ポンドもする邸宅を購入しようとした時、マネーロンダリングの監視網に引っ掛かる。18年、警察の家宅捜索でハムステッド・ヒースの邸宅から6万1000ビットコインが保管されたウォレットが見つかった。しかしウォレットがようやく解析できたのは3年後だった。 事件の焦点は押収された暗号資産を誰が所有するかに移っている。英財務省が裁判所の判断でビットコインを売却できれば、500億ポンド(約10兆2167億円)とも言われる財政の穴を一部補填できる。 一方、中国政府は「被害者の資金」として資金の返還を要求している。 英国では裁判所が「犯罪収益」と判断すれば国家が売却、「被害資産」と見なされれば被害者が返還請求できる。暗号資産が厳しく規制されている中国で被害者が名乗り出ることは大きなリスクを伴うため、英政府が売却して国家財政に組み入れる可能性が高いとみられている。