韓国人を標的とした犯罪が、最近カンボジアで急激に増えており、その多くが「就職詐欺(job scams)」や「オンライン詐欺(ボイスフィッシングなど)」と密接に結びついている。 韓国外交部(日本の外務省に当たる)によると、2022年〜2023年には年10件〜20件程度だった韓国人の拉致・監禁報告が、2024年には約220件、2025年は8月までで約330件にのぼっている。 この「拉致・監禁」のケースでは、被害者が「魅力的な高収入の職」を求めてオンライン経由で誘われ、到着後にパスポートを取り上げられ、外出を制限され、暴力や拷問などの虐待を受け、最悪「死」に至るというパターンが繰り返されている。 ◾️頻発する韓国人の「拉致・監禁」事件 主な被害事例は次の通りだ。 ★50代男性のナイトスポット拉致事件 プノンペン市内の「べング・ケン・コン(Boeng Keng Kang)」地区、カフェから車に戻ろうとした50代の韓国人男性A氏が、車で待ち構えていた複数の外国人(中国人4名、カンボジア人1名)によって拉致・監禁され、拷問を受ける事件。後に現地警察が通報を受けて捜査し、関与した容疑者らを逮捕。武器や薬物も押収されている。 ★電話を使った詐欺組織(ボイスフィッシング)の摘発 「韓国人の若者を高収入で誘い、海外就業を装って詐欺を働かせる」電話詐欺グループが、韓国とカンボジアの双方で捜査・摘発されており、「Hanya call center」と呼ばれる組織等が関与していた。 ★死亡事案および拷問・強制労働疑惑 今年8月、韓国人の大学生がカンボジア博覧会に行って来るといって渡航後、拉致・監禁され拷問を受け、ついには病院搬送中に死亡したと報じられている。死亡診断書には「拷問による心臓麻痺」と記載されたとされる。 このような事例では、幸い脱出した人もいるが、監禁されて暴行・拷問を受けた結果、歩行が困難になる、失明するなどの被害を負っている。いまだに脱出できない人も多数いるとみられる。 こうした犯罪には次のような組織的要素が確認されている。 多くの逮捕された容疑者が中国人であり、中国系犯罪グループが主導しているケースが目立つ。拷問の実行者も多数が外国人(主として中国人)で、カンボジア人が運転手や現地協力者として関与することがある。そして、不幸なことにカンボジアで拉致され拷問を受けた末に、被害者から加害者になってしまうケースもある。自分が助かるためには、韓国に連絡して知り合いなどをカンボジアに来させたり、オンライン詐欺をさせられたりするからだ。 詐欺作業場や「スキャムセンター(scam centers)」のような施設が長期間にわたって活動していること、また被害者の救出が難航することから、カンボジア現地の行政や治安機関の対応能力や意図的な見て見ぬふりのケースも指摘されている。実際、脱出者の話でも、施設を警備していたのが現地の警察であったという例もある。 これらの施設では、ボイスフィッシングやオンライン詐欺、さらにはSNSを通じた就職詐欺なども行われ、国外被害者も多数みられる。 この10月、韓国政府はカンボジア大使を召喚し、韓国国民を標的とする就職詐欺や拉致事件について強く抗議し、オンライン詐欺の根絶を求めた。 10月10日には、プノンペンに対して「特別旅行注意報(special advisory)」を出すなど、現地に出かける韓国人に対する注意喚起を強化した。 電話を使った詐欺グループなどを摘発するため、韓国の検察庁や警察、国家情報院などの機関が連携し、海外拠点を含む国際犯罪組織に対する捜査も進められている。 プノンペン市警でも拉致・拷問事件において中国人やカンボジア人を含む容疑者を逮捕。詐欺作業場なども摘発された事例が確認されている。