金正男が「偽造旅券で来日」は知っていたのに…田中真紀子外務大臣による大失策で日本は世界の信用を失った

スパイ防止法の制定が議論されている。なぜ必要なのか。東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠さんは「現実としてロシア、中国、北朝鮮は日本にスパイを送り込んでいるが、取り締まる法律がない。一刻も早く機密漏洩を防ぐ法律や体制を整備しないといけない」という。『戦闘国家』(PHP新書)より、日本大学危機管理学部教授の小谷賢さんとの対談を紹介する――。(第3回) ■なぜ「日本版CIA」は頓挫したのか 【小泉】日本のインテリジェンス体制をざっくり振り返ると、第2次世界大戦敗戦によって、それまでインテリジェンスを担っていた特別高等警察や軍の情報機関が解体されます。その後、GHQ占領下でアメリカ主導により、徐々に体制が構築されていく。そのなかで、吉田茂政権下では対外情報機関を立ち上げようという「日本版CIA」構想がありましたね。 【小谷】ええ。ただ、当時の政治的混乱や平和主義をめざす世論などが影響して、実現には至りませんでした。代わりに内閣調査室が設置されたのですが、これは各国の対外情報機関のようなヒューミント(人間を媒介とした諜報活動)やシギント(通信、電磁波、信号等を利用した諜報活動)能力を持たず、各省庁の情報を調整するだけの権限が弱いものでした。 国内保安は警察と公安調査庁が、軍事情報は自衛隊の情報本部が担うことになりますが、冷戦に突入したことも相まって、基本的にインテリジェンスはアメリカに依存するかたちになります。 冷戦終結などの情勢変化に伴い、内閣調査室は内閣情報調査室(CIRO)に、自衛隊の情報本部は防衛省情報本部になるなど多少の組織改編はなされるものの、基本的に日本のインテリジェンスは警察と公安調査庁、防衛省情報本部、そのほか省庁が各々の関連情報を取り扱い、内閣情報調査室がそれらの情報を統合・分析・調整する体制が続いていきます。 ■外務省に期待される役割 【小泉】小谷先生の目から見て、日本のインテリジェンス・コミュニティのあり方として何が足りないと思いますか? 【小谷】言ってしまえば、すべて足りない(笑)。情報を集めるという点でも、情報を守るという点でも、さらに情報を活用するという点でも、万全とは言い難い状況です。 まず意識的な問題として、日本は東西冷戦で軍事を含めてインテリジェンスをアメリカに頼りっきりにしてきたために、情報機関に「戦略的な役割」が期待されてきませんでした。諸外国は国家戦略を支えるための重要な存在として情報機関があるのですが、日本において情報機関は「安全保障の中の脇役」という位置づけです。徐々に意識改革は進んでいるものの、より明確に「戦略の中枢」としての意識を持つべきでしょう。 【小泉】個別の組織を見ていくと、それなりに頑張っているのではないですか。 【小谷】そうですね。国内でターゲットを定めた防諜活動や情報収集に関しては、警察や公安調査庁がある程度機能しています。 情報収集に関する差し当たっての問題は、やはり対外情報収集機関がないことです。本来、政府機関の中で対外情報収集を行なう権限を持っているのは外務省です。在外電信を取り扱い、パスポートの発券権を持ち、外国語に精通した職員を多く抱えている。条件は整っているのですが、外務省には国のためにインテリジェンス活動を行なうといった意識が希薄で、ノウハウもないため、情報収集活動は行なっていません。

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