90年前の雄大な音色よみがえる 台湾出身・江文也の楽曲演奏会

東京音楽学校で1930年代に学んだ台湾出身の音楽家、江文也(こうぶんや)(10~83年)らが手がけた楽曲の演奏会が、後身の東京芸術大(台東区)で開かれた。90年近く前の作品が現代によみがえり、民族性も感じさせる雄大な音色が聴衆を魅了した。 「戦時下の音楽教育--東京音楽学校でアジア人留学生が学んだもの」と題した演奏会で10月25日、江やタイ人留学生のプラシッド・シラパバンレン(12~99年)の作品を含む6曲が披露された。 江は30~36年に音楽学校選科で声楽、作曲を学び、36年には、当時「芸術競技」があったベルリン五輪に日本代表で出場し、管弦楽曲「台湾舞曲」で受賞するなど華々しく活躍した。その後は中国で活動したが、第二次大戦後、日本に協力した「漢奸(かんかん)」(売国奴)として逮捕されるなど不遇が続き、北京で逝去した。 しかし近年、台湾ではこの天才作曲家の音楽について再評価が進んでおり、江に関する研究書が出版されたり、特集番組が放送されたりするなど、関心が高まっている。現在も江の足跡をたどるドキュメンタリー映像が制作されており、演奏会にも撮影クルーが取材に訪れた。中国でも撮影する計画だという。 この日は2曲が演奏された。清朝の伝説の美女をテーマにした「香妃(こうひ)伝」(42年)を高井優希さんの指揮によりオーケストラで披露された。もう1曲はベルリンで受賞した「台湾舞曲」のピアノ独奏版で、田中翔平さんが美しい音色を響かせた。 会場には江の次女で都内在住の庸子さん(85)が訪れた。「父の楽曲はなかなかオーケストラで演奏される機会がないので、うれしかったです。今の時代に聴いても古くないモダンさがあります。ですから当時はあまり理解されない傾向があったそうです。また演奏されるといいですね」と笑顔で話した。 演奏会のトークで高井さんは「アジアの作曲家本人のルーツやアイデンティティーにかかわる音楽が、オーケストラという西洋の手法で表現されているのが大きな特徴。アジアの伝統音楽が西洋と良い形でミックスしている。先駆け的な作品だったと思う」と語った。【鈴木玲子】

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