大ベストセラー『京都ぎらい』の筆者が語る「京都中華思想」が生み出したいけず・知恵・吸引力

26万部を超える大ベストセラー本となった『京都ぎらい』(朝日新書)。国際日本文化研究センター(日文研)所長で、著者の井上章一さんは、京都の嵯峨で育った〝洛外者〟の視点から、祇園祭が行われる四条を中心とした洛中人士が持つ「京都中華思想」を皮肉たっぷりに描き出した。洛中の範囲は人によってばらつきがあるが、洛中人士からの蔑みを文筆業の糧にしてきたとも言う。そんな「京都ぎらい」の井上さんに、京都のこれからについて聞いた。 井上さんは京都大学建築学科の学生時代から、嵯峨の人は「京都人ではない」と、陰に陽に念を押されてきた。京都にプロレスの興行に来たプロレスラーが宇治出身なのに「京都出身」と言ってしまったために「お前なんか京都とちゃうやろ」とブーイングされたというエピソードも紹介されている。 『京都ぎらい』ではその洛中人の生態を描きつつも、それに過剰反応してしまう洛外人の井上さんの煩悶が心地よい笑いを誘う。それにしても『京都ぎらい』はどうしてこんなに売れたのか。 「正直なところ、私にも分かりません。売れる、売れないは、書き手にとって神秘だと言うしかないです。 烏丸三条にある大垣書店では、とてもいい場所に拙著を置いてくれました。感謝しかありません。でも、販促ポップには『本当は好きなくせに』と書いてあったんですよ。烏丸三条は、洛中の中の洛中ですから、洛中在住の読者に、『本当は嫌っている本じゃありませんよ』というメッセージを伝えたかったとも取れます。でも、多分そうじゃなくて、著者の私を挑発しているんでしょうね。そう思う自分がいました」 取材の冒頭、井上さんは苦笑しながら当時をこう振り返った。 なるほど、これが〝京都のいけず〟なのか─。そう思っていると、「そんな話なら山ほどある」と言い、こんなエピソードも教えてくれた。 「私の知人の写真家がある時、二条城での個展開催を記念してオープニングパーティーを開催しました。その場でスピーチをしたある人はこう言いました。『どうして君はこんな場所を選んだんや。わが家はこの城のおかげで立ち退きを余儀なくされた』と。 普通の人やったら、二条城にいちゃもんをつけた話に聞こえるでしょう。しかし、そうではないんです。『私たちは400年以上前からここに住んでいますよ』という自慢を言うきっかけを与えてくれてありがとうという含みもあるんです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする