偽装殺人、他殺を装った自殺……。どんなに誤魔化そうとしても、もの言わぬ死体は、背後に潜む人間の憎しみや苦悩を雄弁に語りだす。 変死体を扱って約30年の元監察医・上野正彦氏が綴る大ベストセラー『 死体は語る 』(文春文庫)。 11月27日(木)より、小針かわず氏による コミカライズ連載 がスタートした。コミカライズを記念して、原作のエピソードを一部抜粋して紹介する。(全2回の1回目/ 続きを読む ) ◆◆◆ 以前、吉田茂という宰相がいた。 高齢であったが、至極元気であった。対談で長寿の秘訣として、「食事などに留意されておられますか」との質問に、 「私は、人を食って生きているからね」 と笑わせていたのを覚えている。 フランス小噺風でユーモアに富み、人柄がにじみ出ていて面白い。 ところが同じ話でも、こちらは深刻である。アンデス山中に旅客機が墜落し、死者も出たが生存者も多かった。発見が遅れ救助されるまでにかなりの日数がかかり、食糧に窮した人々は、ついに死者の肉を食べ生命をつないだという体験リポートを読んだことがある。確か、食べずに死を選んだ人もあったと記憶している。生存者は、緊急避難(やむをえない行為)的要素があるので法律上問題にならなかった。