第2次世界大戦に敗れ、国家としての主権を失った日本。植民地だった朝鮮半島は、北緯38度線を境にソ連(北側)とアメリカ(南側)に分割占領され、北側にいた在留邦人は過酷な運命をたどる。移動を禁じられ、食料も住居も不足した状態で厳冬期を迎えたため、栄養失調や感染症により大量死したのだ。 そんな苦境を見るに見かねて、起ち上がった一人の男がいた。その名は松村義士男(ぎしお)。一介の市民で、戦前は治安当局から「アカ」としてマークされており、逮捕歴もあった。松村は個人的な借金までしてアンダーグラウンドでの集団脱出工作に身を賭し、ソ連兵の目をかいくぐっておよそ6万人もの日本人を本土に送還した「引き揚げの神様」として知られるようになる。