メーカーから「寄付金」名目で賄賂を…東大エリート准教授の事件が今後もたらす“とばっちり”とは

11月21日の朝8時半、警視庁中央署から1人の男が護送車で送検されていった。金網とアクリル板に覆われた後部座席の中央に座らされた細面の男は正面の一点を見つめて何かをつぶやいているようにみえた。 警視庁捜査2課が11月19日に収賄の容疑で逮捕したのは、東京大学医学部付属病院の医師・松原全宏(たけひろ)容疑者(53)だ。松原容疑者は医療機器メーカー『日本エム・ディ・エム(以下MDM社)』の製品を優先的に病院で使用する見返りとして「寄付金」名目で約70万円を受け取った疑い。MDM社の元東京第二営業所長・鈴木崇之容疑者(41)も贈賄容疑で逮捕されている。 「東大病院で使用する医療機器は登録制で、松原容疑者は院内の委員会に登録を申請する機器の決定権を持っていました。容疑は’21年9月と’23年1月にMDM社が扱う大腿骨のインプラントの使用について便宜を図った見返りとして、同社に現金計80万円を『奨学寄附金』として寄付させ、うち計約70万円を賄賂として受け取ったというものです。 松原容疑者は、受け取ったお金でパソコンやタブレット、ワイヤレスイヤホンなどを購入し、親族に贈っていました。さらに他の医師とともにMDM社から焼き肉店で計2回、約22万円の飲食接待も受けていました。 松原容疑者は東大医学部で准教授を務めるかたわら、病院では救急・集中治療科に所属。さらに整形外科・脊椎外科では『外傷診チーフ』として骨折患者の手術なども担当していました。昨年の10月には御所で転んで右大腿骨上部を骨折された上皇后美智子さまの手術を担当したチームの一員にもなっています」(全国紙社会部記者) 事件発覚のきっかけとなったのは6~7月にMDM社の社員が長野県佐久市の市立病院の医師2人に現金を渡したとして逮捕・起訴された贈賄事件だった。その捜査の過程で松原容疑者の名前が出たのだという。 ◆企業は寄付金廃止の方向へ 「2課が目をつけたのはMDM社が東大に振り込んでいた『奨学寄付金』でした。これは学術の新興や研究助成を目的として寄付するお金で、具体的な寄付先などを記した書類を大学に提出します。東大の場合は寄付金のうち、大学や病院の取り分を除いた85%が指定された医師個人に配分されて研究目的に活用できます。この大学に提出する書類の書き方も、松原容疑者が鈴木容疑者らに指示していたようです。 警視庁はこの奨学寄附金の一部が、研究とは関係のない物品購入にあてられていた点に着目。MDM側も自社製品を使ってもらいたい意図で寄付したとして、立件に踏み切ったものと思われます」(同前) 松原容疑者はMDM社を含む計5社から、’16年から’23年にかけて計10回振り込まれた奨学寄附金350万円のうち、約300万円を受け取っていたとみられている。 企業が大学へ寄付する奨学寄付金は、企業と大学との間で契約が交わされて使途が厳密に決められている委託研究などとは別モノで、“表のカネ”でありながら、これまでにも“賄賂”とみなされた例があった。医療事情に詳しいジャーナリストは次のように指摘する。 「’21年に三重大学附属病院の教授が、薬剤の使用量を増やす見返りに、製薬会社の社員に200万円の奨学寄附金を大学の口座に振り込ませて逮捕・起訴された事件がありました。この事件では奨学寄付金でも賄賂としてみなしたことで、業界関係者に大きな衝撃を与えました。これ以降、製薬会社は次々に奨学寄付金を廃止します。しかし、医療機器業界はこういった動きから遅れており、そのために今回の事件に至ったと指摘する関係者もいます。今後は奨学寄附金を廃止するメーカーも増えるのではないでしょうか。 一方で、国立大学へ国から支給される運営費交付金の額は減少傾向にあり、大学が研究費を外部からまかなわなければならない割合は年々増えています。奨学寄付金がなくなると、一部の国立大学は資金調達の面で一層苦境に立たされることになるでしょう」 欲に駆られた一部の人間のせいで、大多数の真面目な研究者が迷惑をこうむることになるのだ。 ※「FRIDAYデジタル」では、皆様からの情報提供・タレコミをお待ちしています。下記の情報提供フォームまたは公式Xまで情報をお寄せ下さい。 情報提供フォーム:https://friday.kodansha.co.jp/tips 公式X:https://x.com/FRIDAY_twit

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