羽田空港のトイレで出産、殺害してカフェへ…就活中の女子大生が「常識ではありえない行動」をとった理由

刑事裁判では、被告の責任能力の有無を判断するために精神鑑定を行うことがある。児童精神科医の宮口幸治さんは「時間をかけて調べて、知的障害の可能性があったとしても『普通の人』として裁かれてしまう人たちがいる」という――。 ※本稿は、宮口幸治『境界知能 存在の気づかれない人たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。 ■わが子を殺害し、公園に埋めて遺棄した罪 2019年11月3日、翌日の就職面接のために東京を訪れた当時女子大学生であったK被告は、到着した羽田空港のトイレにて女児を出産し、女児の口にトイレットペーパーを詰めた上に、同女児の頸部を両手で締め付け窒息させ殺害しました。アルバイトをしていた性風俗店の客との子どもだったといいます。その後、空港から10kmほど離れた港区の公園内の土中に埋めて死体を遺棄しました。 事件から約1年後、K被告は逮捕され、2021年9月24日、東京地裁にて懲役5年の実刑判決を言い渡されます。被告人は控訴しましたが2022年6月3日、東京高裁は控訴を棄却しました。 一審の裁判では量刑の理由として以下のような記載が見られます。 「強い殺意に基づく執拗かつむごたらしい犯行」 「殺害は突発的なもので……(中略)……いずれも場当たり的な犯行である」 「知的能力は低い方とはいえ、正常範囲内にあったことが認められるし、経歴、学校での成績等を見ても、知的能力に大きな問題はない」 「母親に妊娠の事実を隠すなど」 「空港職員等に助けを求めようともしてない」 「問題解決が困難である際に姑息的(一時しのぎ)あるいは強引な行動に至る傾向があり」 「妊娠を隠し続け……(中略)……これを直視せず、先送りしたまま出産を迎え」 ■精神鑑定の結果、「境界知能」だった これを受け、週刊誌等ではK被告の一連の行動を不可解かつ身勝手なものとして紹介されました。確かに一般的にそう受け止められて仕方ない一面があります。しかしそうとも言い切れない重大な事実もありました。それはまさに本書の核心に迫るものでもあります。 弁護人は、この事件の背景には被告人の「境界知能」の影響があり、それを酌むべきだと主張しました。実際、公判前に行われた精神鑑定において、K被告のIQは74で境界知能に該当していたのです。 一般的に、平均値(IQ:100)より約1〜2標準偏差(1標準偏差は15)低い知的機能が境界知能とされ、それに従えば「IQ:70〜84」が境界知能となります。「IQ:74」という値は境界知能でも低い方に位置づけられます。

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