ブッカー賞を2度受賞した世界的巨匠、マーガレット・アトウッド氏のディストピア小説を原作に、理不尽な世界で女性が強く生きる姿を鮮烈に描いたドラマ「ハンドメイズ・テイル／侍女の物語」。ファイナルシーズンとなるシーズン6(全10話)が、動画配信サービス・Huluにて全話独占配信中。本記事では、ジューン(エリザベス・モス)たちの壮絶な最終決戦が描かれるファイナルシーズンの内容や見どころを振り返っていく(以下、一部ネタバレを含みます)。 ■「ハンドメイズ・テイル／侍女の物語」とは 本作では、行動を極限まで制限された監視下の世界で、今を生き抜いていく“侍女”の姿が描かれる。2017年4月にアメリカHuluで配信されると、全米で社会現象を巻き起こすほど注目を集めた。また、物議を醸す衝撃作として、2017年のエミー賞では作品賞含む主要5部門を受賞、2018年のゴールデングローブ賞のテレビシリーズ/ドラマ部門では、作品賞と主演女優賞を受賞している。動画配信サービスによる制作ドラマが、史上初のエミー賞作品賞を受賞し、アメリカのテレビ史に新たな革命をもたらした。 舞台は環境汚染により少子化が深刻化した世界。妊娠できる健康な身体を持つ女性は、家族や仕事、財産、そして人権をも奪われ、“子供を産むための道具=侍女”として上流階級の夫婦のもとに送り込まれることが法律で決定した。本作では、そんな侍女の一人・オブフレッド(エリザベス・モス)の目線から、彼女たちが強いられた世界が映し出される。 “性奴隷”をテーマにしたセンセーショナルな作品として、宗教や圧政により女性の人権が侵害された歴史や現代社会への批判、未来への警鐘が描かれている本作。原作者のマーガレット・アトウッド氏も以前メディアのインタビューにて、「声をあげることができるうちに声をあげること、一票を投じることが可能なうちに投票をすることがいかに大切なことか、ドラマを通して視聴者の皆さんに理解してもらえたらと思います」と、政治への関心を呼びかけている。 シーズン1では、独裁国家ギレアドの体制や侍女制度の異様さ、そしてジューン(エリザベス・モス)が置かれた状況の過酷さが明かされ、それでも消えない静かなる抵抗心が丁寧に描かれていく。続くシーズン2では、逃亡や反抗のリスクがより明確になり、ジューンの選択が物語を大きく動かしていくことに。 シーズン3では、ついにギレアドの体制に揺らぎが生まれ始め、国外の動きも描かれる。さらにシーズン4では、体制の亀裂が表面化し、ジューンたち侍女はギレアドや男たちからの支配や脅威から脱却しようと必死にもがく。そしてシーズン5では、強く深い復讐心を抱くジューンがついに行動に移す様子が描かれ、シーズン6では自由を奪われた女性たちの“革命”がついに本格化していく。 ■ジューンがギレアドへの抵抗組織に加わり、最後の復讐に挑む… シーズン5のラストにて、西へ向かう列車の中でセリーナ(イヴォンヌ・ストラホフスキー)と再会したジューン(エリザベス・モス)。ギレアドに苦しめられた被害者たちの乗る列車で、セリーナは立場上正体を隠していたものの、彼女の正体に気付いた医師が警察に通報してしまう。その後乗客はパニックになり、セリーナは息子とともにピンチを迎える。 いっそのこと逮捕された方が身の安全は保証されるのだが、ギレアドに恨みを持つ警察は彼女を別人扱いし、あえて逮捕しなかった。これにより暴動はさらに激化し、ジューンは耐え切れず列車からセリーナを突き落としその場から逃がす。そしてセリーナは放浪の末見つけた、女性のコミュニティ・カナンに迎えられ、しばらく身を置くことになった――。 一方、列車を降りたジューンは娘のニコールを連れてアラスカの難民キャンプへとたどり着く。キャンプでは夫・ルーク(O・T・ファグベンル)や友人・モイラ(サミラ・ワイリー)たちと電話で連絡を取り合えたが、ある時から急に連絡がつかなくなってしまう。実は、彼らがギレアドへの抵抗組織・メーデーに志願したことで、国境で身動きが取れなくなっていた。そのことを知ったジューンはキャンプで再会した母にニコールを預け、彼らを助けに向かうのだった。 その後、ニック(マックス・ミンゲラ)の協力もあってなんとかルークたちの救出に成功したジューンは、メーデーに合流。そして調査のため売春宿・イゼベルに潜入し、娼婦として働くジャニーン(マデリーン・ブリューワー)と再会すると、1週間後にイゼベルにいる司令官たちを襲撃し、売春婦たちを助けるという計画を告げる。かつて自分たちを陥れたギレアドに復讐するため、そして愛娘・ハンナとの再会を夢見て、ジューンは友人や侍女たちとともに強大な相手に立ち向かっていくのだった――。 ■自由と尊厳を勝ち取るべく、死をも厭わない“革命”を起こす 本作を改めて振り返ると、ジューンをはじめとする侍女たちは、シーズン1ではただギレアドで生きることに必死だった。いつ迫害されるか分からない恐怖と支配の中で、ただ司令官の子を身ごもり出産するだけの“道具”だった彼女たち。助けを求めることすら許されず、“明日の無事”のために生き抜く日々がどこか“日常”になってしまっている気がして、恐怖を覚える時すらあった。しかしファイナルシーズンでは、ジューンら侍女たちは“生きる”ことから“自由と尊厳を勝ち取る”ために行動を起こしている。 ルークとモイラがギレアドとの国境で身動きが取れないことを知った際にも、ジューンは母親の反対を押し切って迷うことなく駆け付けていた。以前のジューンであれば、このような大胆な行動が取れていただろうか。さらに、侍女たちもジューンを筆頭に団結し、司令官たちに復讐すべく立ち上がる。 命の保証がないとわかっていながらも、ずさんな支配体制を崩すために奮起するジューンらの姿は非常に頼もしく、自由と尊厳を懸けた“革命”に踏み出す様子は本シーズン最大の見どころと言えるだろう。 これまで幾度となく絶望と挫折を味わってきた中で、周囲の支えやギレアドへの抵抗組織・メーデーの存在などによって、たくましい姿へと成長を遂げたジューン。全編を通じて“恐怖からの解放”が丁寧に描かれていくファイナルシーズンは、彼女たちの覚悟が感じ取れるストーリー展開となっている。 ■ジューンとセリーナ、因縁の2人が迎える結末に注目 セリーナは列車から飛び降りカナンで暮らした後、女性の権利が認められた“新ベツレヘム”の広告塔として呼び戻される。もともと自分自身の存在価値を示したいという気持ちが強いセリーナがこの手に乗らないわけがなく、持ち前の発信力を活かし張り切って宣伝活動を開始した。女性外交官たちもセリーナや妊娠中の夫人の姿を見て徐々にセリーナに対し友好的な反応を見せる。 そんなセリーナが“向こうでは王族のような扱いを受けている”と耳にしたジューンは「でしょうね。彼女は常に勝つ」と一言投げ捨てた。分かり合えたかと思えば、いとも簡単にジューンの身分では到底届かない地位に就き笑顔を見せるセリーナ。この“手のひら返し”にジューンは幾度となく打ちのめされてきた。 おそらくセリーナは強い“承認欲求”が根本にあるのかもしれない。もともと作家をしており発信力が強い彼女は、自分自身に意識を向けてくれる人がいて初めて生き生きとした様子を見せる。“ギレアドへの復讐”や“ハンナ奪還”という目的のために動くジューンとは似て非なるため、たびたび対立してきたのだろう。 しかし本シーズンでは、ジューンも黙ってはいない。ウォートン司令官と再婚することになったセリーナの結婚披露宴会場を絶好の機会ととらえたジューンは侍女たちと協力し、刃物を忍ばせ薬物入りのケーキを司令官に食べさせて復讐するという作戦に出た。ただでは起きないジューンの激しい復讐心や、セリーナが祝福される機会をあえて狙う策士ぶりが垣間見え、2人の攻防には常にハラハラさせられる。 もともと“侍女”と“司令官の妻”という関係から始まり、確執が続いてきたジューンとセリーナ。果たして2人が行き着く先は“友情”なのか“対立”なのか…ファイナルシーズンで描かれる最終決着に注目だ。 ■強い絆で結ばれたジューンとニックの関係に変化が訪れる 本シーズンでは、ジューンが最初に侍女として仕えたウォーターフォード家の運転手であり、ニコールの実の父親でもあるニックとの関係性もポイントとなっている。ジューンにはルークという夫がいるものの、彼女にとってニックはギレアドでの悲惨な生活を送る中で唯一の“希望”のような存在だった。またニックもジューンのことを愛しており、彼女のためにたびたび自分自身を犠牲にすることも。 そんな中、ファイナルシーズンではこの2人の関係に変化が訪れる。イゼベルの襲撃計画の際、ジューンから金庫に置いてきてしまった忘れ物を取りに行くよう頼まれたニック。忘れ物を取り無事に帰宅したかと思われたが、ここである出来事が起きる。それをきっかけに、ジューンとニックの間には大きな溝が生じることに…。 かつてウォーターフォード家で確かな絆で結ばれていたジューンとニック。特にニックのジューンへの献身ぶりは目を見張るものがあり、離れていても、他の女性と結婚しても常にジューンを気にかけてきた。実際、ジューンの身に危険が迫っていることを恐れたニックは「パリへ逃げよう」と彼女に提案もしており、最後までジューンと幸せになる道を望んでいる。 それぞれ家族や立場がありつつも、心のどこかでお互いを想い合ってきたジューンとニックの関係性も見どころの一つ。この2人がファイナルシーズンでどのような結末を迎えるのかぜひ注目してほしい。 なお、Huluでは「ハンドメイズ・テイル／侍女の物語」のファイナルシーズン(シーズン6)に加え、シーズン1～5も全話見放題配信中。