フジテレビ系にて2026年1月3日放送の「決定！第34回FNSドキュメンタリー大賞」（午前4：55）では、富山テレビ放送制作の大賞受賞作「雲上の除雪隊 ～アルペンルートの春～」を取り上げる。 1992年にフジテレビ系列各局の番組制作能力向上とその蓄積を図る趣旨で創設された「FNSドキュメンタリー大賞」は、今回で第34回を迎え、系列28局が制作し今年放送された。審査の結果、そのノミネート作品の中から大賞に選ばれたのが「雲上の除雪隊 ～アルペンルートの春～」だ。富山テレビ放送が大賞を受賞するのは、10年の第19回以来、15年ぶりのことで、3回目となる。 同作品の舞台は、巨大な雪の壁「雪の大谷」で有名な立山黒部アルペンルート。そこで行われる、大雪原に付けた道筋を基に進む除雪作業に着目。そこには、“先輩を見て覚える”唯一の20代、除雪隊の高齢化、人手不足、そして世代交代といった現実があり、番組では過度な説明をせずにそれらを伝えた。 この北アルプスの山岳観光ルートでは、毎年4月のオープンに向け、高さが20mにも及ぶ雪の壁に挟まれた道を雪にまみれながら除雪する総勢11人の作業員がいる。厳寒の山岳地帯で泊まり込みでの作業は50日にわたり、氷結したドアをバーナーで溶かして乗り込む重機を自在に操り、分厚い雪面を切り開いていく。白銀の世界にうねる一本道の雪壁の美的バランスは、まるでアートのようで、観光客の目を魅了。この道40年の大ベテランの近くには、その職人魂を手本とする20代の新人が思い通りにならない重機と格闘する姿もあった。立山の透き通った青空には大雪原が浮かび上がる一方で、山岳地帯は天候の変化が激しく、前が見えない猛吹雪に急変することも。 同作品で描いたのは、そんな美しくもあり、厳しくもある大自然の映像と共に、カメラが入らなければ誰も知ることがないアルペンルートの陰の立役者たちの奮闘ぶりだ。ローカル局ならではの堅実な密着取材の成果が実を結び、空からの美しい大雪原とかじかむ手で重機を操る作業員という、文字通り「鳥の目と虫の目」でアルペンルートの裏舞台を見事にとらえている。 そして、厳しくも美しい銀世界で働く除雪作業を真正面から描き、過酷な撮影環境で圧倒的に美しい映像をカメラに収めたことも高い評価を獲得。表からは見えない、誰かがやっている仕事が社会を支えていることを考えさせられる作品として支持を集め、大賞受賞に選定された。 同作品を手がけた富山テレビ放送の矢野美沙ディレクターは、「世界屈指の豪雪地帯・立山で、春、多くの人が魅了される“雪の大谷”。最も美しく輝く様子を見られるのは、ほんの数週間に限られています」と前置きし、焦点を当てた対象を「そのわずかな時のため、冬の間、自然の厳しさと向き合いながら黙々と作業を続けるのが除雪隊の皆さんです」と紹介。 続けて、「一面の銀世界で働く姿を通して改めて痛感したのは、表からは見えない“誰かの仕事”が、確かにこの社会を支えているという事実」と明かす矢野氏は、「ともすると、自らの働きぶりをいかにうまくアピールするかが重視される昨今ですが、そうした時代の価値観すべてが正しいのか自問自答する中で制作したのが今回の番組でした」と取材する上で秘めていた胸の内を吐露している。 さらに矢野氏は、受賞の喜びとして「地域の宝物である風景、そこに根付く人々を見つめた番組を評価していただき大変うれしく思っております。そして何よりも、取材を快く受け入れてくださった皆さま、本当にありがとうございました」と感謝を口にした。 なお、「第34回FNSドキュメンタリー大賞」優秀賞は鹿児島テレビ放送制作の「警察官の告白 鹿児島県警 情報漏洩事件を問う」。鹿児島県警の元生活安全部長が、ジャーナリストへの捜査情報漏えいの疑いで逮捕された。だが、その動機が明らかになると、さらに衝撃が広がった。「警察職員による犯罪行為を、本部長が隠蔽（いんぺい）しようとしたことが許せなかった」。元幹部は、情報漏えいではなく公益通報だったと主張する。一方、本部長は「隠蔽の指示はなく、捜査は適正に行われた」と反論。しかしその後、次々と対応の不備が露呈していく。 また、特別賞には、関西テレビ放送制作「出口なき部屋 介護離職 救いはどこに－」、フジテレビジョン制作「当事者たち。フジテレビ入社４年目の記録」が選ばれている。