国境越え、加害者と被害者結びつける 人身取引の「ブローカー」とは

東京都文京区の「マッサージ店」で働いていたタイ国籍の当時12歳の少女が、人身取引被害者として保護された事件で、タイ国籍の女が児童福祉法違反(淫行させる行為)の疑いで警視庁に逮捕された。少女を店に引き渡す「ブローカー」だったと警視庁はみている。 人身取引はなぜ起きるのか、ブローカーとは、どのような存在なのか。千葉大大学院国際学術研究院の佐々木綾子准教授(国際社会福祉論)に聞いた。 「人身取引」と聞くと、大規模な犯罪組織が背後にあると想像するかもしれないが、必ずしもそうではない。 組織的なものもあれば、業者や個人など、大小さまざまな複数のブローカーが、国境を越えたネットワークを形成し、仲介役となって被害者と加害者を結びつけているものもある。 「良い仕事がある」とリクルートする役▽移動や採用などの手続きを手伝う役▽被害者を搾取先まで送り届ける役――というように、複数の人が関与する。 リクルート役には親戚や知人などが関与することもあり、こうした身近な人の誘いには警戒心を抱きにくい。闇バイトの特殊詐欺のように、末端は、全貌(ぜんぼう)を知らずに役割を果たしていることもあるだろう。 ■元被害者が「ブローカー」の役割果たすことも ブローカーは、高額な仲介料を要求したり、渡航費用や宿泊費用などの名目で借金を背負わせたりしながら、労働や売春などを通じて被害者から搾取する。家族のために働こうとする気持ちを利用することもある。 近年はSNSを通して、現地の言語で募集する手口が増えているようだ。十分な情報や選択肢がない被害者は、甘い言葉を信じ、人身取引に巻き込まれてしまう。 被害者は、外部との接触を閉ざされていたり、多額の借金があったりして、簡単に助けを求められない状況に置かれていることがある。騙された自分が悪い、もう引き返せない、と思っていることもあるだろう。 特に国境を越えた人身取引の場合には言葉が通じず、どこの誰に助けを求めればいいかわからない。日本で保護されたとしても、これまでに背負った借金が帳消しになるわけでも、被害者への経済的補償があるわけでもない。帰国後も生活再建が見通せず、再び人身取引に巻き込まれる人も少なくない。 人身取引が起こる背景は複雑で、グローバルな経済格差や生活困窮、性の商品化、性別や人種に基づく非対称な関係性、人と人の結びつきまで、何層にもわたる要因が絡み合っている。 子どもが親に売られるような人身取引も、「日本で勉強できる」と騙されて働かされるような人身取引も、様々な層をターゲットとした人身取引が同時に起こっていて、元被害者がブローカーの役割を果たすこともある。ブローカーについては、明らかになっていない部分が多いのが現状だ。 被害をなくすには、人身取引によって、誰がどのように利益を得ているのかを考え、その構造を変えていく必要がある。人身取引は「需要」と「供給」だけで発生するわけではなく、ブローカーのように「需要」と「供給」を結びつける過程に関わる人々が利益を得られるからこそ成り立つ。 人身取引された人がつくった靴や洋服、獲った魚や収穫された野菜、提供した家事労働や性的サービスを消費する私たちもその仕組みの一部だ。加害者の末端が逮捕されても、人身取引の仕組みを支える構造や人々の意識が変わらなければ、なくなることはないだろう。(太田原奈都乃)

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