性的接触を目的に未成年者をはじめとした児童に接近し、信頼関係を利用してコントロール下におく“チャイルドグルーミング”(以下、グルーミング)。信頼関係を築いた上で性加害を行うため、子どもの抵抗感を失わせ、それが性暴力であることすらわからないように加害を行うのが特徴だ。近年、聞かれるようになったこの言葉をテーマに描いた漫画が『娘をグルーミングする先生』(のむ吉:著、斉藤章佳 西川口榎本クリニック副院長(精神保健福祉士・社会福祉士):監修/KADOKAWA)だ。 主人公の佐倉真美は女手ひとつで子どもを育てるワーキングマザー。高校1年生の娘・小春の成績が落ちていることに愕然とし、塾を探すことに。小春が通うことになった塾の塾長・森先生はとても真面目そうな人。森先生のおかげで小春の成績も次第に上がっていきすっかり安心していた真美だが、ある日小春から「ママに会わせたい人がいる」との言葉が。交際相手として連れてきたのはなんと森先生。森先生との交際を反対する真美だったが、小春は聞く耳を持たず……。 本作の監修をした西川口榎本クリニック副院長で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(あきよし)先生に、グルーミングについて話を聞いた。 ――日本でグルーミングという言葉が使われるようになったのはいつ頃でしょうか? 斉藤章佳さん(以下、斉藤):私が子どもに性加害する人たちに特化した再犯防止プログラムを始めたのは2018年からです。その頃から私はグルーミングという言葉を意識的に現場で使うようになった記憶があります。その後2020年くらいから法務省など国レベルの報告書の中にグルーミングという言葉がでてくるようになりました。 ――グルーミングという行為自体は言葉が生まれる前より増えているのでしょうか? 斉藤:具体的な数はわからないのですが、インターネットやSNSが若年層の間で当たり前のツールとして使われるようになってからは加害者側の児童へのアクセス方法としてその手口が増えていると思います。インターネットがない時代は顔見知りの人から行われる場合とそうじゃない場合、大きく分けて2つのケースだったのが、SNSやオンラインゲームが発達したことによって、オンライン上で見知らぬ人とつながる機会が生まれました。そういうところにも潜在的なグルーミングのリスクがあります。 被害を受けるのは女性のイメージがあるかもしれませんが、グルーミングに限らず性暴力は男女関係なく被害者になる可能性があります。私の臨床的な感覚だと、グルーミングの被害者の男女比は3:7くらいですが、男の子の被害者は表面化しづらいだけでもっと多いと考えています。それに男女両方を狙っている加害者もいますから。 ――本作の加害者は男性ですが、女性の加害者もいるということでしょうか。 斉藤:います。私は女性で子どもに性加害をする人には今まで一人しか会ったことがありませんが、これは刑事事件として性加害が表面化しにくいからだと思います。例えばこれは受刑者から実際に聞いた話なのですが、中学生の時家族と温泉旅行に行った際、混浴の露天風呂で面識のない40代くらいの女性から性加害を受けたと。しかし、性的な興奮を覚えたので、彼はそれを“良かった体験”として記憶していました。しかし刑務所での教育の中で初めてそれが性被害であったことを知ったと。そこでその被害体験が自分の性的な価値観とか女性に対する考え方を歪めていたことに気づいたそうです。 男性にしろ女性にしろ、性的な接触において相手を“対等の人間”として向き合うというのはどういうことかを考えるのが、教育的にもとても大事だと考えます。 取材・文=原智香 斉藤章佳: 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。現在、西川口榎本クリニックの副院長。25年に渡り、アルコール依存症、ギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、児童虐待、DV、クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。専門は加害者臨床で、3500人以上の性犯罪者の再犯防止プログラムに携わる。著書に『「小児性愛」という病-それは、愛ではない』(ブックマン社)、『子どもへの性加害-性的グルーミングとは何か』(幻冬社新書)、『夫が痴漢で逮捕されました-性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)などがある。