あるはずだった救命ボート 知床沈没事故、被告社長の「ウソと保身」

北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没して乗客乗員全26人が死亡・行方不明となった事故を巡り、運航会社「知床遊覧船」社長の桂田精一被告(62)=業務上過失致死罪で起訴=の釧路地裁での公判で、検察側は2日、被害者家族たちの供述調書を読み上げた。事故後に語った被害者の人生や、残された者の苦しい胸の内が法廷に響いた。 「息子は妻にベタぼれで妻は『理想の人』と言っていたようだ。ほほ笑ましく見ていた」 孫を含む息子一家を亡くした家族はそう語っていた。息子は子ども(孫)が生まれ、手帳に「人生で一番幸せを感じている」と書き留めていた。孫はよく笑う明るい子で、食事の時間になっても夢中で遊ぶ姿は、小さい頃の息子に重なった。 最愛の人たちを失っただけに、桂田被告への処罰感情は強い。「反省の様子は見られない。できるだけ厳しい処罰を」と訴えた。 供述調書は、検察官が2時間弱にわたって代わる代わる読み上げ、桂田被告は視線を手元の書類などに落として聞いていた。 娘と孫が被害に遭った男性は「『じいちゃん、じいちゃん』とついてくるかわいい孫だった」と思いを寄せ、別の親族は「事故当時、桂田被告は救命ボートを乗せていると言っていたが、うそだった」と不信感をあらわにした。 事故で死亡した男性船長(当時54歳)の妻の調書では、事故翌日の2022年4月24日、桂田被告から電話で「事故を起こしたのはご主人。見つかっていない」と伝えられたことが明かされた。 22年9月に遺体が発見された後には、桂田被告から「(賠償で)裁判になるかも。逮捕されそうで、海保(海上保安庁)から何か聞いていないか」と保身に走るような言葉が聞かれたという。 思いやりのあった70代の夫を亡くした妻は、沈没直前とされる4月23日午後1時20分ごろから船上の夫と41秒間通話した。「沈みかかっている」と言う周囲はザワついていた。「もしダメだったら、長いこと世話になったね。ありがとう」と言い、電話は切れた。 「絶望的な気持ち」「大切な家族を奪われた」「人生が一変した」。家族自身もまた心身を傷めた。「安全管理の体制をつくっていたら、事故は未然に防げた」という強い憤りや、「軽々しく言うべきではないが、死刑にしてほしいくらいの気持ち」と葛藤を口にした人もいた。 長男の小柳宝大(みちお)さん(当時34歳)が行方不明になったままの父親(67)は、弁護側の被告への質問も含めてこの日の公判を見届けた。「うそ偽りなく話してもらいたい。謝罪もあったが、言うだけだ。桂田被告だけは許せない。責任を取ってもらいたい」と語った。【谷口拓未】

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