美しいハーモニーの裏で起きていた事件…チェコ名門合唱団の少女の実話を映画化『ブロークン・ヴォイス』9月公開

チェコの実在する合唱団をめぐる性的虐待事件を題材にした映画『ブロークン・ヴォイス』(原題:Sbormistr)が9月19日(土)より公開されることが決定。ティーザーポスターと特報映像が解禁された。 日本でも公演を行い広く知られていたプラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」。同合唱団の指導者ボフミル・コリーンスキーは2004年、少女たちへの性的虐待容疑で逮捕され、1984年から2004年にかけて少なくとも49人が被害を受けていたことが明らかになった。 物語の舞台は、共産主義体制が終わりチェコ共和国が西側諸国へと開かれていった90年代初頭。カンティチェラ少女合唱団のBチームに所属する13歳の少女カロリーナは、選抜チームに入る姉ルチエの背中を追っている。 ある日、指揮者のヴィテクに目をかけられたカロリーナは、海外ツアーの選抜合宿に欠員の代役として呼ばれる。厳しい練習と競争の中で、ヴィテクは時に優しく、時に距離を縮めてくる。やがてカロリーナだけが「特別」に扱われるようになり、正式な団員に選ばれる。しかし夢のニューヨーク公演で歌声が乱れたカロリーナは、帰国便に乗るよう告げられると、ヴィテクの部屋へと連れ込まれ…。 監督・脚本を手掛けたのは、チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロヴァズニーク。本作は彼にとって長編第2作目にあたる。監督はこの物語を「告発」や「断罪」として描くことをあえて選ばず、カメラは一貫して13歳のカロリーナの視点に寄り添う。「選ばれる」ことへの喜びや誇らしさを丁寧にすくい取りながら、権力の濫用がごく日常的な関係の中に紛れ込み、見えなくなっていく過程を描き出す。 主人公カロリーナを演じたカテジナ・ファルブロヴァーは、撮影当時13歳。初出演とは思えない繊細な演技で思春期の少女が抱える不安や高揚を表現し、2026年チェコアカデミー賞主演女優賞を受賞した。カテジナ・ファルブロヴァーは、キーン少年少女合唱団(日本では「チェコ少年少女合唱団」としても知られる)のメンバーでもあり、劇中で歌われる楽曲は全て本人による歌唱だ。本作は2025年カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭ヨーロッパ・シネマズ・レーベル賞、2025年チェコ映画評論家賞ベスト映画賞を受賞している。 指揮者ヴィテクを演じるのはユライ・ロイ。魅力と恐怖が同時に立ち上がる存在感で、単純な「悪役」には回収できない権力者像を形づくる。 また、映像は16ミリフィルムで撮影され、ざらついた粒子とやわらかな色合いが90年代の空気を呼び起こすと同時に、少女の内面に寄り添う感覚的な映像世界を形づくる。合唱シーンの多くは音源をかぶせるのではなく、生の歌声で撮影されている点も重要だ。少女たちの息づかいや緊張感がそのまま音として刻み込まれている。澄んだハーモニーが重なるほど、観客はその背後に潜む違和感や不協和音を、より強く意識することになる。 本作はなぜ声を上げることができなかったのか、なぜ沈黙が長く続いてしまったのかを、ひとりの少女の経験の内側から静かに問い直す作品だ。 歌うこと、声を揃えることを求められた少女たちは、気づかぬうちに自分自身の声を失っていく。監督が焦点を当てたのは、トラウマのその後や告発の行方ではなく、虐待が起こる「手前」の時間だ。美しいハーモニーの裏で何が起きていたのか…。告発ではなく、沈黙が生まれる瞬間を描いた映画なのだ。 少女にとって本来は守られるべき安全な空間が、いかにして少しずつ毒されていくのか。その過程を見つめる本作は、あらゆる「安全なはずの場所」に潜む危うさを、いまを生きる私たちに静かに突きつける。 『ブロークン・ヴォイス』は9月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。 © endorfilm s.r.o. Punkchart films s.r.o. Česká televize innogy Česká republika a.s. Barrandov Studio a.s. 2025

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