“白雪姫”はだーれだ――。韓国ドラマ「白雪姫には死を~BLACK OUT<拡張版>」(全16話)が、6月22日(月)昼2時よりCSホームドラマチャンネルにて放送される。主人公自身も序盤は、己が罪を犯したのか否かが分からないため、そこも含めてすべてに謎と違和感が存在する本作。タイトルをはじめ、本当に“すべて”に意味がある。全16話に緻密に張り巡らされた伏線が繋がって一つの真実に辿り着いたとき、あなたはきっと目を醒ますような爽快感が味わえるはずだ(以下、ネタバレを含む)。 ■目覚めたら殺人犯――すべてに謎と違和感が存在する極上ミステリー 本作は、ドラマ「ミセン」などで知られる実力派俳優ピョン・ヨハン主演で、世界的な人気小説をドラマ化した犯罪ミステリー。 19歳で優等生だった主人公・ジョンウが、同級生の少女2人を殺害した容疑で逮捕されるショッキングな場面から物語は始まる。だがジョンウは、泥酔により当時の記憶が完全に抜け落ちる“BLACK OUT(記憶喪失)”になっていたため、殺人を犯した記憶も、無実だという記憶もどちらもない。そのまま殺人罪で10年の刑期を終えて出所した彼は、生まれ育った村に戻るが、そこで10年前には見つからなかった遺体が白骨化して発見される。自分は本当に犯人なのか? 己の記憶すら信じられない絶望の中、ジョンウは自ら事件の真相を追っていく。 本国では視聴率が右肩上がりに急上昇し、「2024MBC演技大賞」でピョン・ヨハンのベストアクター賞をはじめ最多5冠の受賞を果たした超話題作。韓国地上波では14話に編集され放送されたが、今回の<拡張版>はフル尺の全16話で描かれており、物語の深みも、張り巡らされた伏線もより緻密にスケールアップしている。 ■1秒も無駄がない、緻密に計算された“胸糞の悪さ”と“快楽” 本作が多くの視聴者の心を掴み、虜にした最大の理由は、息が詰まるほどの“胸糞の悪さ”と、それを鮮やかに覆す逆襲の圧倒的な快楽だろう。ドイツという異国の傑作原作を、韓国特有の閉塞感のある小さな村に見事に落とし込んでいる。 本当に1秒も無駄がない、緻密に計算された物語設計なのだ。第1話の冒頭から散りばめられた“何気ない村人の態度”や“小さな嘘”、“同級生の奇妙な言動”などが、後半すべてドミノ倒しのように繋がっていく。サスペンスとしての圧倒的な完成度に、閉塞的な村という独特な緊張感、そして人間の恐ろしい醜さというドロっとしたスリラー要素が美しくマリアージュされており、観始めたら死、のめり込まないはずがない。 ■「目は口ほどに物を言う」登場人物たちの目が語る不穏なシグナル ミステリーとしての重厚感はもちろんだが、本作の最大の特徴であり、真相を解く鍵となるのが登場人物たちの“目”だ。 なぜ彼は目を逸らしたのか、なぜ彼女の目は爛々と輝いているのか、なぜ彼の目は揺れているのか、なぜ彼の目はこちらに向かないのか、なぜ彼女の目はあまりに真っ直ぐなのか…。一見、主人公を支える味方や、無関係に見える村人たちの目から、実はさまざまな歪んだシグナルが発せられている。 さらに、人生を狂わされた主人公を怪演したピョン・ヨハンの“目の演技”も圧巻だ。序盤の「本当に俺が殺したのか…?」という恐怖に震える怯えた目から、中盤以降の「絶対に真実を暴く」という鋭い目への切り替わりには鳥肌が立つ。彼の目の変化を追うだけでも、このドラマを観る価値が大いにあると言い切れる。 ■都会人には不気味に映る、閉塞的な村集落の“奇妙な団結力” 本作の描写は、田舎出身者にはよりリアルに伝わるだろう、村全体の閉塞的な空気感と奇妙な団結力、そして何より“命より重要な世間体”。なぜ、主人公の母親は10年間一度も面会に行かなかったのか。決して愛がないわけではない、むしろ息子を愛している。そしてなぜ、周囲から白い目を向けられ、肩身の狭い思いをしてまでこの村に住み続けるのか。 そこには、家族だけでは生きることができない、村特有のご近所との強烈な結びつきに縛られた複雑な事情が絡み合う。他人との境界線が極めて薄い村集落の雰囲気は、都会で生まれ育った者には、より一層不気味に感じられるはずだ。 ■村集落を舞台にした超皮肉な「白雪姫」 誰もが知る童話の白雪姫は、小人たちしか住んでいない森という小さな集落で暮らし、仮死状態から目覚めて幸せな結末を迎えた。本作もまた然り、圧倒的な勧善懲悪の結末が待ってはいる。 だが、“白雪姫”が眠っている間に何が起きていたのか、実のところ彼女は知らない。そして、女王もまた鏡が告げた「白雪姫が一番美しい」が真真だったとは限らないのだ。誰かの言葉に踊らされ、何かを失った愚かな者たち。小人たちによってガラスの棺に入れられ、美しく祀られた白雪姫。本作では、そのガラスの棺と深い眠り(BLACK OUT)をもたらした毒林檎、そして白雪姫に死を与えた理由が、これでもかと皮肉を込めて描かれている。…さて、白雪姫は誰でしょう。 構成・文=戸塚安友奈