「検察なめんなよ」などと、取り調べの相手を罵倒したなどとして、特別公務員暴行陵虐の罪に問われた検事の初公判が開かれました。 2019年12月、大阪地検特捜部の取り調べの映像。声を荒げるのは、大阪地検特捜部の検事だった田渕大輔被告(54)です。 田渕大輔被告 「なんで嘘ついたの?」 取り調べ相手 「嘘っていうか…同僚」 田渕大輔被告 「嘘だろ?今のが嘘じゃなければ、何が嘘なんですか。嘘ついたよね?」 田渕大輔被告 「失敗したら、腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけているんだ、こっちは。だから、絶対、失敗しないように証拠を集めて、何百人という人から話を聞き、何千点という証拠を集め、何万という電子ファイルを見て、何十万通ものメールを見て、こうして、あなたたちを逮捕しているんだ。命かけてるんだよ。検察なめんなよ」 大阪地検特捜部は2019年、学校法人の土地取引をめぐり、21億円を横領したとして、当時の理事長ら6人を逮捕。この中には、大阪の不動産会社大手『プレサンスコーポレーション』の創業者である山岸忍さんも含まれていました。山岸さんは、一貫して容疑を否認していました。 田渕被告が取り調べていたのは、山岸さんの当時の部下。山岸さんが逮捕された決め手の一つは、この部下が、山岸さんの関与を認めたことです。 ただ、その取り調べは、長時間、恫喝しながら供述を迫るものでした。 田渕大輔被告 「一丁前に嘘ついてないなんて、格好つけんじゃねえよ。ふざけんな」 裁判所は「必要以上に強く責任を感じさせ、真実とは異なる供述をさせかねない」と、元部下の供述は信用できないと判断。逮捕された6人のうち、山岸さんは、唯一、無罪となりました。 山岸さんは、田渕被告が取り調べで元部下を脅迫したとして、特別公務員暴行陵虐罪で刑事告発しますが、検察は不起訴に。その後、公務員の不起訴処分を裁判所が判断しなおす“付審判請求”をします。 裁判所が請求を認め、田渕被告は現職の検事として、初めて付審判による刑事裁判で裁かれることになりました。 異例の裁判では、検察官の役を裁判所が指定した弁護士が務めます。 被告として初めて立った法廷。田渕被告は、終始、淡々とした様子で自身の主張を述べました。 田渕大輔被告 「取り調べの言動に陵虐、加虐にあたるような行為や意図はまったくなかった。特別公務員暴行陵虐罪は成立しない」 裁判終了後、検察官役の弁護士が会見を開きました。 検察官役の弁護士 山口昌之弁護士 「これくらいは許されると、複数の録音録画を見た検事が判断し、大きな問題になることなく、捜査が進んだ、公判が進んだ。こういう取り調べが、犯罪に該当するかどうか、今後の警察や検察の取り調べのあり方に、相当、大きな影響があるものと考えております」 田渕被告の弁護人 森直也弁護士 「なんとなく怖い取り調べだな、こんなのは良くないなでは、やはりダメ。陵虐にあたるかどうかを厳しく吟味されなければならない。刑法上の違法になる取り調べなのかどうなのかをはかる分水嶺になる裁判になると思っているし、そうでなければならない」 田渕被告の取り調べが決め手となって逮捕された山岸さんも、裁判を傍聴していました。 山岸忍さん 「誰もあれが違法で、ひどい取り調べだと思っていなかったと、きょう明らかになり、本当に驚きました。我々、一般国民と彼ら(検察)の中で、意識の乖離といいますか、常識の乖離があると感じました」 ◆現職の検事が罪に問われている裁判。何が異例で、どのような影響をもたらす裁判なのか見ていきます。 裁判の始まりそのものが、異例でした。 検察や警察官といった公務員の犯罪を裁判にかける場合、本来は、検察の判断で起訴が決まり、裁判が行われます。 一方、今回は、田渕被告が侮辱的な取り調べをしたとして、検察に告発したものの、検察は不起訴にしたため、“付審判請求”という手続きがとられました。これは、検察の代わりに、裁判所が判断して裁判を行うもので、検察による身内への不公平な判断を防ぐための制度です。 ただ、付審判請求で、裁判が行われることはほとんどありません。 過去50年間で、1万9529件の請求がありましたが、裁判に至ったのは、わずか15件。確率でいうと0.07%で、非常に珍しい裁判です。さらに、今回のように現職の検事が裁判にかけられるのは、史上初のことです。 ◆なぜ、今回は裁判することになったのか。刑事訴訟法が専門の大阪大学大学院の水谷規男教授に聞きました。 水谷教授は「今回、付審判請求で裁判に至った一番の決め手は、取り調べ状況が録音・録画されていたこと。これまでは、取り調べ時の対応について『言った・言わない』の水掛け論になるケースが多かったが、今回は実際の行為が客観的に明らかになっている」といいます。 さらに、裁判を決めた裁判所の対応も異例でした。 大阪高裁は裁判の決定にあたって、「田渕被告の取り調べは、個人の資質や能力に起因するものではなく、捜査や取り調べのあり方について、“組織として真剣に検討すべき”」と言及。田渕被告の取り調べ様子は、録画などによって可視化され、上司にも報告されていたため、今回の問題は、田渕被告だけの責任ではなく、結果的に見過ごした検察組織全体の問題としてみるべきと、異例の指摘をしました。 水谷教授は「現職の検事による取り調べのあり方が法廷で争われ、国民に明らかになること、それ自体に意味がある。検察にとっては、取り調べのあり方を見直す機運につながるのでは」と話します。