2016年の6月、高知東生(たかち・のぼる)さん(62)は覚醒剤取締法違反で逮捕された。仕事を失い人が離れ、デマに基づく激しい中傷にさらされた。「この世界から消えたくなった」というほどのどん底から、どう人生を立て直したのか。転落後の10年間の歩みとは(全2回の1回目)。 * * * ■嘘にまみれた自分に疲れ果て 「逮捕しに来てくれてありがとうございます」 2016年6月24日。麻薬取締官、通称・マトリの捜査官が愛人といたホテルに踏み込んできたとき、高知さんの口から、そんな言葉がでた。 「あの時点でもう、『どん底』だったんです」と振り返る高知さん。 日常のストレスを自分で消化しきれなくなり、つらさから逃れようとして女性と覚醒剤に頼った。当時の妻には、バレないようにアリバイを作り続けた。 「このままではいつか全てを失うとわかってはいたんです。でも、もうやめようと思っても、自分の力ではどうやっても変えることができない。『やばい、やばい』という苦しさに襲われ、また覚醒剤に手を出す。そんな嘘にまみれた自分に、疲れ果てていました」 逮捕されたとき、「人生が終わった」という思いと、「これで、もうこの状態を終わりにできる」という思いが浮かんだ。冒頭の「ありがとう」は後者だが、両方、嘘ではなかったという。 ■「病気」受容するまで数カ月 執行猶予付きの有罪判決が下された。その後、依存症の専門医を受診し「薬物依存症」との診断を受けたが、自分が病気だと受け入れるまで数カ月かかった。20歳で覚醒剤に手を出したが、いつでもやめられると信じてきたからだ。 「あるとき、『高知さん、逮捕されなかったらクスリをやめられなかったでしょ? だから病気なんですよ』と医師に言われて…。やっとその言葉が自分の中に入ってきたんです」 信用も仕事も失った高知さんを待っていたのは、マスコミや世間からの激しいバッシングだ。自業自得の犯罪だから、その事実が叩かれることは覚悟していた。 だが…。